作品タイトル不明
省みて敵を見よ4
「絵画?」
「飾ってあるんだ。教会に。偉い司祭様のお姿だって・・・」
自画像の保管や展示は富裕層の流行だ。
顕示欲の具体化とでも言うべきか。存在していた証明を残したいっつー、前向きなんだか後ろ向きなんだか、よくわからねぇ欲望の形。
起源は王族の姿を残すための手段だったらしいが、絵描きが増えて富裕層にも取り入れられたのが随分昔。流行っつーには長いかもしれねぇが、文化にしちゃぁまだ浅い。
その程度の代物だ。
「自画像を残しておくのは北大陸じゃ常識だったりするのか?」
「そんなわけねぇだろ。北大陸はこっちより、よっぽど寒いんだぞ。絵具なんてあっという間に乾いて剥がれちまう。保存も一苦労なんだ、絵に残そうなんて思うのは、どっかの道楽かでもなけりゃ周りに崇められた偉大な人物ぐれぇだろうよ」
なら、その司祭はどっちに当たるのか? ・・・ってことになるんだが、後者だろうな。
飾られてるのも、どうせ教会の中―――。
「司祭ってことは、教会の人間だったんだよな?」
「そうじゃねぇはずがねぇだろ?」
「その教会にはどんな教えがある?」
「教え?」
「何を信じて、何を否定するかだ。加護教で言えば、加護のLvを信じる。同じ発言、行動でも。加護Lvの高い奴の方が偉い。加護とは信仰する女神から授かる神聖な愛らしいからな。加護をもってなけりゃ人間ですらねぇと否定してくる」
そんな奴が居んのかよ⁉ と驚き顔を見合わせるが・・・さて、どっちの意味か。否定する奴に対してか、それとも加護すら持たない奴に対してか。
「けど、なぁ?」
「聞いたことがねぇ。教会ってのは病気や怪我を見て、薬をくれる場所じゃねぇのか? 後は葬儀とかよ。こっちに来てからも世話になったことはあるが、そういう違い? とかは感じなかったぜ」
「その認識は間違っちゃいねぇが、その辺は利権の話だからな。もっと思想的な話だ。それじゃ治療院と同じだろ」
「治療院ってのはあれだろ? 回復魔法を使うんだろ? だから、効果や金の差なのかと・・・」
それもまぁ違わねぇんだけど・・・。
だとしたら、
「その教会はなんのために集まったんだ?」
信仰での思想共有を目的としないなら、教会の存在意義はなんになる?
「そりゃやっぱり金儲けのためだろ? 病気の治療も薬の販売も。教会しかしてなかったわけだしな」
「そっちの教会はそんなに儲けてたのか?」
「え⁉ あー・・・どうだろうな?」
「おい! こっちに振るなよ! 俺が知るわけねぇだろ‼」
「あーでもアレだ‼ 絵画ッ‼ アレの保存には金がかかってるはずだ‼」
「おお‼ そうだな‼ 後、建国祭の宴とかな‼‼」
「何言ってんだ⁉ ありゃ国王の金だろ‼」
「いや! 教会の施しは教会からの持ち出しだろ‼」
この反応から見ても。金遣いが荒かった・・・なんてことはねぇんだろう。
それがなんで、望福教なんてもんを生み出したのか。
北大陸の司祭から現在の教祖へ至るまでの間に、何があった?
この違和感はなんだ?
宗教や信仰が存在するのは政治のためだ。
金によって価値が可視化されたことによる弊害とでも言えばいいか。
権力は金に集まる。
そしてその逆もまた然り。
それを制御するのが思考であり、それを誘導するのが宗教ってわけだ。
要は金や権力を手にする奴の暴走を緩めるための手綱が信仰なんだ。
善悪の観点や道徳の足掛かりは全て宗教に委ねられている。
人を殺してはいけない理由も、何を幸福とするかの基準も、どんな生活を美徳とするかも。全て。
神や悪魔。天国や地獄。世界や精霊。なんでもいい。
誰が考えたか、誰が言い出したか、誰が伝えたか。
そんなことは知らねぇが、時の権力者にとっては都合がよかった。
だから利用した。
その根底にあるのはいつも。利用者の願望。
他人を人形のように侍らせて、自身を崇めさせるような願望なんて一握り。
なるほどな。
なんとなくだが、わかってきたぞ。
人間の教祖なんてものを演じるドラゴンの深淵が。