作品タイトル不明
side――ケイ
『いいかい? あんた達! 合図が見えるまでは大人しく待機だからね!』
そう言い聞かせてから、もうしばらく。
そろそろ我慢が利かなくなるね。声を掛けなきゃいけないけど、こんな所で大声はマズいし、どうしたもんかね・・・。
ルーフロンス領の東門からそう遠くない林の中で身を屈め、待っていた。
今にも痺れを切らして飛び出しそうな手駒達を抱えながら、合図はまだかと待っていた。
仕方ないね――。
そう思って振り返った瞬間、ザァーーと風が吹く。
後頭部を梳くような風は、じれったい熱を奪うだけじゃなかった。
それは雲を運び、あたしらの足元へ。
大きな大きな。影を落とす。
「合図だ! 行くよ‼ あんた達‼‼」
腕を振り上げて、進軍命令を出す。
林から街道へ飛び出し、隊列を組んで進行する。
一糸の乱れなく揃った行軍・・・なんてのは、あたしらにゃ無理だけど。
それでも十分に揃えて見せた。
それが役目だったからね。
「我々は皇国軍の先遣隊だ! 皇王陛下からルーフロンス領主へ出頭命令が出ている‼ 速やかに応対せよ‼‼」
残った手駒の内、一番厳つい顔の男に台詞を覚えさせた。
その方がハッタリが効くんだと。
けど妙だね?
雰囲気がちょっと物々しいというか・・・反応が―――。
「おっと! 変な気は起こすなよ⁉ 我々は先遣隊だ‼ 本隊は――ッ⁉」
無言のまま。
視線を交わし合ったかと思うと、こっちの用件なんか聞く気はないとでも言うみたいに、いきなり切りかかってくる。
「聞いてた話と違うじゃねぇかッ⁉⁉」
「言っといたはずさッ‼ 最悪の場合で、だけどね‼‼」
相手は少数なのもお構いなしに、押し込むように前に出てくる。
しかもまだ、無言のまま。
感情だって見えやしない!
これは聞かされてたとおり、精神魔法による操作の症状‼
「殺してもいいんだよなぁ⁉⁉」
「仕方がないからね‼ だけど、ちゃんと引き付けてから脇でやるんだよ⁉ あたしらの仕事は押し込みなんだから、道の真ん中は邪魔になる‼‼」
「そんなこと言われたってよぉ‼‼ ここは橋の上だぞッ⁉⁉ そんなことしてる間に―――ッ‼‼」
防戦に回りながら視線で訴える兵士。
その視線を辿ると、門から追加の敵が出てきてるじゃないか!
「堀に突き落とすんじゃ駄目なのかいッ⁉⁉」
「無理だ‼‼ 押し寄せてきてるんだぞ‼‼ 1人捌いてる間に次が来る‼ それになぁ! 一番前の俺達だけで敵全部を突き落とすなんて不可能だ‼‼ 下がるぞ‼‼」
「あたしらに任されたのは押し込みだよッ⁉ 下がってどうするんだい‼」
「どうしようもねぇだろ‼‼ こんな状況じゃぁよお‼‼‼」
接触からあっという間。
なし崩し的に橋から押し出され、気付けばもう堀の外。
「もうわかったから‼ 取り敢えずどんどん堀へ落として数を減らしな‼」
「だから! 前の数人だけでそんな数、相手に出来るわけないだろ⁉⁉」
「交代すればいいだけじゃないか‼‼」
「いつすりゃあいいんだよぉおおおお‼‼‼‼」
バシャンバシャン! と小気味よく響くのも泡沫。
途切れない敵の列に疲労は溜まる。
武器を持って振り上げられた腕を押さえて、だけど押し返せないまま。
最前列にいた兵士が倒れ、覆いかぶさるように次が来る。
驚くことに、敵は仲間を認識していないのか、仲間ごと葬ろうと武器を掲げる。
慌てて横から蹴とばして―――なんて、している間に。
隊列なんて意味をなさないほどに泥沼化されていた。
「どうするんだよ‼‼ これ‼‼」
「誰か‼‼ 助けてくれ‼‼‼」
「ぐあぁ⁉ 斬られちまった‼‼」
「おい! あそこヤバいぞ‼‼ 落とされる⁉⁉」
怒号から悲鳴へ変化するまで。大した時間は要らなかった。
「「「指示をッ‼‼‼」」」
その声を聴いても、あたしにはどうすることも―――。
「撤収だよ‼ 逃げるんだ! 負傷者を援護して‼」
それでもせめて、決断だけでも。