作品タイトル不明
天井の嘘
「その通りだと思いますよ? 我々からすれば、貴方の御母上は酷く楽観的な人間だったなという感想しかありません。この国で望福教を布教するのに都合がよさそうだったのでその事象を利用はさせていただきましたが、それを悪用といわれる筋合いはありませんね」
追い打ちのような言葉を前置きに、
「けれど、それは貴方々にも言えることですがね」
ガラリと空気を変えるような声で続ける。
「・・・どういう意味だ? と、言っておくべきか?」
「ハハハハハ! 本当に、その振りが好きですね? それとも、私に説明をさせたいだけでしょうか?」
放心状態の領主達を置き去りに、場面は進む。
「我々は貴方の存在を知っている。当然、警戒もしていた。その上で・・・敗北を喫した。先のルーヴェント領で」
その内容も知っていますと言わんばかりに、視線をヨハンへ注ぐ男。
「原因は多くありますが・・・1つを挙げるとすれば、やはり不注意ですか。いくら教祖様といえど、神ではありませんからね。領地の全てに気を配るのは不可能だった。そちらにいるお連れに気付いていれば、まだ違ったでしょうが――それは教育の失敗でもあるので、私個人としては無視したいところ。距離もさることながら、関係は捨てられませんか。いえ、捨てた結果でしたね」
ヨハンが父親と良好な関係を築いてたなら・・・・・・確かに違う未来になっただろう。冒険者なんざに目をくれることもなかっただろうからな。
「とはいえ、それは教義を重んじた末のこと。私の責任ではないと言い訳しても許されると思いませんか? ・・・・・・無視ですか、つれませんね。まあいいでしょう。つまりですね? 我々は貴方々の。動向も、規模も。知っていたということです。ルーヴェント子爵が誰に護送されたかも」
「見逃すだけの余裕があった・・・」
「はい、その通り! 高々100人程度。迎え撃つ算段はできている。教祖様はそうおっしゃっていましたので、私は冷やかしとして。ここへ来ているというわけです」
「兵士はもう自由に操作できるってことか?」
この声が耳に届いたのは胡散臭い男だけではなかった。
「どういうことだッ⁉ 兵士は私の指示がなければ―――‼‼」
項垂れていた領主が、突き上げられるように動き出す
・・・が、同時に。
「冗談はやめてもらえますか? ここへ来て1年以上。私は遊んでいたわけではないんですよ? 精神魔法のことも、さっきお伝えしましたよね?」
「なんのことだ・・・?」
「はぁ・・・本当に察しの悪い・・・その方が都合がよかったのは確かですが、こんな場面では鬱陶しさが勝りますね。忘れたのならもう一度、教えましょう。精神魔法には面倒な前段階があるんですよ。それが信用を得ることなんですけどね」
動きを止めるだけの衝撃を上から。
「領主からの紹介。これほど簡単な事が他にありますか?」
バッキリと。何かをへし折るように。悪魔のように微笑みかけ理解させた。
「あ・・・ああ―――あああああぁぁぁあぁぁぁああッ‼‼‼」
支えていた何かを失った領主は、両手で顔を覆いながら膝から崩れ落ちる。
男はそれを満足そうに見送り、そのままの表情で俺に向かって言う。
「それと、兵士だけではありません。お気付きですよね?」
領主を見下すためか、覗き込むような姿勢のままこっちを向きやがって。傾いた頭が気持ちの悪い笑い顔でこっちを向くだけで気持ち悪いってのに、廊下だけじゃなく、屋敷全体からこの部屋へ気配が飛んでくる。
まるで処刑台にでも登った気分だ。
「どうします? 外部へ連絡を試みますか? この窓からなら、まだ間に合うかもしれませんよ?」
一層目を細めながら愉悦に浸ってるところ悪いが、
「その必要はねぇよ」
「なんと・・・! どういう意味です?」
「窓の外でも見りゃぁいいだろ?」
既に、雲行きは変わってるんだ。