作品タイトル不明
破れるは自らの糧
そんなわけが―――・・・ない。
とは、言えるはずがなかった。
皇都ではいつの間にやら、伝説などと言われるまでになった俺達の始まり。
それは間違いなく途轍もない事件だったからだ。
貴族の子息が冒険者に。しかも下級の逼迫した家名からじゃなく、新参とはいえ上級貴族の家名から、・・・だけじゃなく!
なんと現皇王の末子までもが‼
だったんだから当然だ。
大々的に宣伝したなんてことは微塵もねぇが、それでも。
知らねぇ人間なんざ居ないんじゃねぇか? と思うほど、俺達は目立っていた。
爺さんが教皇になった頃は、俺達が冒険者になるよりほんの僅かばかり前。
直前に別の事件があったとて、その衝撃を忘れさせるには十二分足り得る。
爺さんの教皇交代にも話題性はあったしな。
加護Lv5の教皇誕生。
加護教にとっちゃ最大の注目だっただろう。
そこへ上級貴族と皇族から冒険者になる変人。
一般人でも思わず聞きなおすような出来事の連続。
どこか聞き覚えのある。私腹を肥やすと言ったような悪事の噂が、頭から抜け落ちても致し方ないのかもしれねぇ。
「それに、思ったんですけど――」
おずおずと手を上げてヨハンが言う。
「リミアのお父様がお母様を本当に愛しているのなら、そんなお母様の立場をこれ以上悪くするだろう情報を外に出しますかね? 教会の排斥のために悪事は公表したとしても、加護Lvが低下したなんて話は隠すんじゃないかなって・・・」
あまりにも的を射た指摘だった。
そんなことを触れ回れば、また要らぬ傷を負うことは請け合い。
それどころか生まれてくるリミアにさえ良からぬ影響があったに違いない。
「っつーことは、意図的に動いたのはむしろ―――」
「父の方だった。そう言われると反論の材料がありませんね」
納得のいく仮説にリミアも首肯せざる負えなくなる・・・が、1人異を唱える人物も。
「でしたら、お爺様はなぜ、そんな時期に教皇となったのでしょうか?」
ユノだ。
それもまた自然な疑問といえるだろう。
意味もなく大変な時期に組織の頭を挿げ替えるのか?
そんなことをして、何になると言うのか?
「枢機卿側からの提案だった可能性はあるだろうな。責任を取っての辞職、からの指名。それを断れるかっていやぁ・・・・・・ただ――」
「ただ・・・どういたしましたか?」
「そういう雰囲気じゃぁなかったんだよな。爺さんの教皇就任は間違いなく市民から祝福されてた。有体に言えば盛り上がってたんだよ。あの当時は。そこに非難だとか、追及のような剣呑さはなかったと言っていい」
爺さんは歓迎されていた。
もちろん。本人がそうなるように動いていた影響もあるだろうが、不満が高まっていればそれだけでおさまるはずがない。
なのに、そんな声を聞いた覚えがねぇんだ。これっぽっちも。
それとも記憶違いか?
当時の俺はまだ未成人。注意力だって今とは雲泥の差だ。隅まで追いやられた声に気付けなかっただけか?
記憶の海に潜ろうとしていた所へ、
「だとしたら答えは1つじゃねぇかよ」
ジェイドが一石を投じる。
「そんな話はなかった。そういうこったろ?」
あり得ない話だ。