作品タイトル不明
破れるは自ららの枷
「寄付金の着服の公表は領内にだけ。その他の事情も明かさずに家督の継承と爵位の繰り上げを辞退したってのか?」
「だって、そうとしか考えられねぇじゃねぇかよ。辞退の理由を明かすには、功績になったっていう薬の開発に問題があったことを言わなきゃならねぇし、それを言うってことは―――そういうことだろ? 家督の継承も同じだろ? 説明しようとすりゃ秘密にしたいことまでバレちまう。不正の公表にしても、領民だって恥を宣伝したくはねぇはずだ。それとも俺様がおかしいのか?」
「確かにそうかもしれねぇがな・・・」
「なんの問題があるんだよ?」
「だとしたらだ。教会は何も知らなかった可能性が出てくるんだよ」
「それがどうしたってんだよ?」
「この際、当時の爺さんが悩んでたことや、こぼしてた内容がなんのことだったかは無しにして。本当に教会が一切の情報をもってなかったとしたら――」
「したら?」
「望福教はどうやって、ルーフロンス領まで辿り着いたんだ?」
「どうやってって―――それは・・・誰かに聞いたんだろ?」
「誰にだ? 加護Lvの低下なんていう事件なんざ、この瞬間まで誰も知らなかったんだぞ? それにまつわる話でさえ、今知ったはずだ」
「だから、ルーフロンス領の誰かに・・・」
「それなら教会以外には噂が流れてくるだろう。どこまでいったって不正は教会側の落ち度だ。その手の悪評が広まるのは速い。だが・・・」
さっきから言っているように、教会への風当たりが強かった記憶はない。
「それはそんなに重要なことなのか? どうだってよくねぇか?」
「いいわけねぇだろ! いいか? もし仮に、だ。連中がルーフロンス領に最初から目をつけて、事を起こしたんだとしたら―――敵の手勢は今までの比じゃなくなるってことだ」
「比じゃなくなるって言っても、領軍は出払ってるんだろ? 多少増えたからって・・・」
「そういう話じゃねぇ‼ お前らは直接見てねぇからわからねぇだろうが、端的に言うとだ。領民全員が特攻覚悟の兵隊になってる可能性があるんだよ。ルーヴェント領でさえ、領民や一部の子供までが襲い掛かって来たんだぞ! 精神操作が甘かったおかげで、それなりの数で済んだが・・・」
それでも死体の山と呼べる程度の惨事になったんだ。これ以上ともなれば、こっちにも被害が出る。
「はぁッ⁉⁉ おい! それって本当か⁉」
あまりのいいようからか、ジェイドはヨハンへ振り返って尋ねる。
「えっと・・・はい。本当です。命令通りに動くアンデットみたいな挙動じゃなかったですけど、死ぬのを怖がってたのは少数と言うか・・・子供達には必死になるだけの理由があったので止まれなかったというか・・・」
「何人いたんだ?」
「正確にはわかりません。でも100人くらいは・・・」
考え込むような仕草を見せたのも束の間、
「・・・足りるのか?」
ジェイドが不安そうに訊く。
「それが問題だ」
100人ってのはこっちの残ってる兵と同じ数だ。
戦う場所や作戦を整えれば10倍ぐらいまではどうにか、なんとかなる。
だが、領民全てが1000人で収まるはずもなく。
警戒の強いルーフロンス領に乗り込むのは自殺行為だ。
「待ってください。そんなことよりも気になる問題があるのですが・・・」
とても重要なことをそんなこと呼ばわりするのはリミアだ。
しかし、
「望福教の教祖は竜であると、先生は考えているんですよね? それも先生と相反する力を持っている竜であると・・・」
そう。避けては通れないもう1つの問題もある。