作品タイトル不明
満を自して
「鍵か・・・・・・」
ユノには皇都で信仰をその身に集めるより重要な役割がある。そういうことなんだろうが―――・・・俺にはまだわかりそうもない。
それとも嘘で、ただユノを皇都から遠ざけたかっただけか。
枢機卿とは。ほとんど顔を合わせたことはないが、正直疑っちゃいない。俺と同じ、怒りを宿した目をしていたからな。
何か目的があったとしても、グレアムの爺さんの忘れ形見に不利益を被せたりはしねぇだろうという、一種の信頼がある。
だが嘘か・・・。
マルチナを引き込んだのも枢機卿だったな。
そっちが本命の可能性は? いや、マルチナにそんな価値はねぇって言ったのは俺自身だな。
だとすると、ユノとマルチナの関係性?
それこそ有って無いようなもんだと思うが・・・・・・―――。
そうか。
望福教の信者をユノ側へ誘導するのが狙いだな。
ただ対立を演じるだけじゃ振り分けが難しい。だからわかりやすい的としてマルチナを立てた。
枢機卿は過去、教皇の職にもついていた経験があり、加護信仰の色が強い。
それに比べてユノは望福教の囲い込みを担当していた時期があり、年若いから加護教に凝り固まっている印象もない。なにより、祖父グレアムは教皇であったが、その息子である父グレンゼーは望福教信徒。それも教祖とほど近い位置に居た。
そこへ元望福教信者である外様のマルチナを代表代理として受け入れれば、周囲からはどう映るか?
流されやすく使いやすい小娘のように見えるだろう。
例え今回の一件で望福教の立場が悪くなろうとも、ユノという神輿を担いでおけば再起の芽は残ると、擦り寄ってくる。
マルチナの望福教離反も、どこまで知れ渡っているかは不明。
皇都内で望福教として活動していたことは間違いなく、貴族学園生徒誘拐にも一枚噛んでいる都合上、そこで仲間としての認識は持たれているはずで、それ以降に教祖から宣言でもなければ、真偽は不明のまま。
都合よく解釈するなら、教会に忍び込んだ密偵にも見える。
そうして望福教を一点に集中させ、管理しやすくするのが目的か。
敵を内側へ抱え込むには、効率も重要になってくるからな。
最悪の想定としては、これを機に枢機卿が教会内部を私物化する線だが、それならユノをこちらに送る意味がない。
それこそ、効率を考えれ動きの予測できない位置に対抗を置かないはずだ。
けど、そうなると。いよいよ鍵の意味がわからねぇ。
こっちからすりゃぁマルチナがここへ来た方が都合がよかった。
元望福教であり、東領の出身だ。
土地勘や情勢、ちょっとした風習の違いや宗教間の齟齬を見抜いたり期待も出来ただろうが、ユノにそういう能力は・・・。
「どうかしましたか?」
「いや―――、」
つい視線を送ったことで、鍵の謎についてわかったのか? なんて聞かれそうになった辺りで、
「すまないね。思ったより招集に手間取っちゃってさ・・・」
半分に減った兵隊を引き連れたケイが合流する。
「何かあったのか?」
「報酬のことでちょいとモメちまってね」
「護送のことか?」
「そうじゃなくって、略奪した金品の方さ」
聞いたところ。領主を南の辺境伯領へ送るに当たって、騒ぎに便乗してかっぱらった金品も一緒に持ち帰る流れになり、そのことで取り分が減ると思った連中が喚いてたんだと。
自分がどさくさ紛れに物を盗んだもんだから、ここでも同じようなことが起こるだろうと言い出して、誰がセイルスルーまで戻るかや、取り分の正確性について事細かに決めなければ収拾がつかねぇ所まで発展したそうだ。
特に護送については略奪に参加しなかった兵を中心に編成していたことで、その疑惑がより深まったようだ。
どちらにせよ、そんなことで騒ぎ出すような連中に信用なんざねぇからな。護送役に回せるわけもなく、金品は目録を作ることで納得させたらしい。
頭を抱えながら謝るケイの後ろで、兵達は調子に乗って笑いながら奪った金品の量や質を自慢し合う。
いい加減にしろ! と、ケイがそれを咎めるが、あまり効果はなかった。