作品タイトル不明
鍵を持して
『悪いが皇都に残って教会の動きを監視してくれ。特に教会内にいる望福教信徒について注意しろ。もしかしたら、次があるかも知れねぇからな』
皇都を出発する前に、マルチナにそう伝え得ることで同行を拒んでいた。
役に立たないからじゃない。この方が動きやすかったからだ。
現に。教会内へ取り込んでいた望福教には動きがあった。
それを伝えて貰うためには皇都を抜け出す必要があるが、マルチナならばそのことに希望があった。
理由は単純だ。マルチナという人物が重要視されていない事と、元望福教であるという事実が敵の網にかかりにくいと踏んだからだ。
マルチナは望福教にとっても捨て置ける程度の人物であり、それは他の全ての組織においても同様だった。皇国としても、教会としても、軍や、あるいは俺の関係者としても。それほど重要な人物にはなり得なかった。
それゆえの動きやすさと、元構成員としての知識による予測。
それらを合わせれば、より少ない危険で合流が可能だと考えていた。
だからこその配役。
それが―――。
「驚かれましたか? でしたら、苦労した甲斐があったというものです!」
なんでユノが⁉
そう思うが、いつまでも面食らってるわけにもいかねぇ。
「具体的に、どうやってここまで来た?」
「枢機卿様とマルチナ様にお手伝い頂きました」
「マルチナにも、か?」
「はい! マルチナ様は今。皇都にて私の変わり身を演じてくれているはずです! それに、ここに来るまでの道程も教えていただきました!」
「変わり身? てっきり、教会はお前の存在を全面に押し出して、信仰心を集めて内部工作員の動きを牽制するかと思ってたんだが・・・」
「大多数の方がそうしようとおっしゃっていたのですが、枢機卿様がそれでは短絡的すぎると。教皇の死をただの悲劇として消費しては、相手の思う壺だとおっしゃられまして」
「わかりやすいが故に読みやすいから・・・か。だが、それを差し引いても主導権を取るには十分な手だろ? 代わりにどんな手段に出たんだ?」
「対立です」
「対立?」
「はい。私を擁立する派閥を用意しつつ、枢機卿様自身が教皇の座に返り咲こうする動きを見せ、対立することで混乱を演出したんです」
「演出ってことは・・・」
「はい。全ては枢機卿様が指揮を執っています。先程も申し上げた通り、教会内は一丸となっていますので、争っているのは見かけだけになります」
「だが、そんなことをすれば国民の心は離れるんじゃねぇのか? 皇都は今、外から望福教に攻め込まれて不安定なはずだろ? 緊張が続くならいっそ、望福教でも構わないから意思の統一を願う連中が出てくるんじゃねぇか?」
「いいえ。あまり詳しくはわからないのですが、皇都の防衛は上手くいっている様子でした。皇都内外の出入りは難しいですが、内部だけの安全は保たれているのです。だからこそ時間を引き延ばしたいと枢機卿様はおっしゃっていました」
「皇都の防衛戦を活発化させたくないってことか」
「おそらく、ですけれど・・・・・・他には国民の内部に潜んだ望福教の関係者や、潜在的な敵対者をあぶり出すためだともおっしゃっていましたけど、私にはなんのことだか・・・」
「望福教の関係者ってのは、そのまま望福教に協力してた連中のことだな。金か、人か、後の地位か。何かしらを提示され、それに食いつき乗っかった貴族や商人を選り分けたかったんだろう。潜在的な敵対者ってのは、教会に不満がありつつも表面化まではしてなかった国民のことだな。対抗を出して様子を窺いつつ、意見を上手く誘導したり潰したりすることで、明確な敵か味方として判別をつけるつもりだな。同じようなことを起こさせないための地盤作りに使う算段でもあるのかもな」
協力者の貴族や商人達には。事態が収束した後に、皇王陛下から何かしらの沙汰が下るだろう。
教会が生き残り、望福教が倒れれば冷遇は間違いなし。
そして、敵対が表面化した国民達をそちらへ誘導し、その上で貴族や商人の頭を押さえることで支配し、今回のような反旗を許さない構えを取る。
理に適った計算高い陽動。
元教皇の手腕は伊達じゃねぇと言えるだろうが・・・だとしたら。
「変わり身なんかが良く通用したな?」
もっと言えば、そんな愚行がよくもまかり通ったなとも言える。
枢機卿の対抗馬は。暗殺された教皇の孫であり、聖女のでもあるユノ以外には務まらない。にもかかわらず、その旗印が偽物じゃあまりにもお粗末だ。
「それなのですが、あくまでも代理ということでマルチナ様に表立っていただいているのです」
「代理?」
「暗殺の恐れがあるため、それぞれの代表は安全を確保できる場所へ留まり、その同調者達が信頼を勝ち得ることで力を証明するものとする―――という、派閥方式と言えばいいのでしょうか?」
「なるほど。体のいい理由をでっち上げたのか」
「こうすることで教会の人間を各地に集めても疑問視されないからと。私達がどこに居てもおかしくないように、どこにいるかがわからないようにするための措置だと言うことで、皇都内に目を光らせているそうです」
「内部の協力者と外部の領軍を呼応させないための布石か。本気で衝突まで長引かせるつもりなんだな」
「その間に解決してきなさいと、そう仰せつかって私は来ました。その鍵は私なんだと、そう言われて・・・」