軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

慢を辞して

「ゼネス様のおっしゃる通り、教会内に望福教の信者が紛れ込んでいました。しかも、一切の嘘も使わずに・・・です」

「やっぱりか・・・あのやり方は悪くない案ではあったが、情報が洩れれば逆利用される可能性には気付いてた。もっと注意するべきだったな」

「教会に望福教の信者って・・・どういうことかしら?」

その場にいたエイラだけが事情を知らないために乗り遅れる。

「詳しくは省略するが、望福教の連中は皇都でも動いてたんだ。心水と呼ばれる商品の流通や、それを支援、処方する診療所の設置、望福教への勧誘。皇都貴族や豪商への癒着なんかもあった」

「それを止めるべく教会が打った手立てが、望福教を教会内部の一派閥だと誤認させること。教会側からも、教えに不満を持つ人々へ接触し、名ばかりの望福教へ勧誘することで、信徒の流入、流出を防ぎ、事態の停滞を測ったのですが・・・」

「なるほど。教会側からすれば、信徒が減るってことは協力者が減ることと同義、更にその減った信者が望福教に取り込まれてしまえば、敵まで増えるだけじゃなくて、倍の速度でその差が縮まってしまうってことね」

「そういうことだ。だが、その手法を逆に利用された」

「逆に・・・ってことは、勧誘した中に本当の望福教信者がいたのね?」

「はい。私達はそのことを見抜けず・・・不甲斐なくもその場を利用され、その結果として、教皇様の暗殺を呼び込んでしまったのです」

教会への不満をうやむやに、望福教派閥という存在しないはずの留め金で教会に残そうとした。恐らくはその舞台を逆に洗脳の現場として使われたか。

騙すはずの指揮者が操られてるなんて思いもしなかった。

そこから教祖は近付いたんだ。

記憶や意識を改ざんできるなら、元教会関係者を潜り込ませるのは容易。

グレンゼーなんかはその最たる例だろう。あれでグレアムの爺さんの息子なんだからな。

「ちょっと待って? だとしたら今、皇都はどうなってるの⁉」

「ご安心ください。今は枢機卿様を筆頭に、教会は一丸となって皇王陛下をお支えしています。皇国軍も内外で上手く呼応できていますので、陥落などの心配はありません。その証拠として、こうして私が皇都からの脱出に成功しています」

「え? でも、精神を操る相手なんでしょう? どうやって見分けたのよ」

「経験者の協力を得て、膿を出したとでも言いましょうか・・・表現が難しいのですが」

経験者―――ってことは。

「ローランが目を覚ましたのか?」

「はい。ゼネス様が連れ帰ってから1週間ほどは眠ったままでしたが、ゼネス様がこちらへ赴くころに丁度。お目覚めになられました」

「後遺症は?」

「思考能力の低下や語彙の消失などが多少。しかし、ご本人の希望もあり、精神魔法の有無や状態の識別に協力いただきました。ジーナ様の魔眼も大いに役に立ったのだとか」

「まぁ、アイツは魔力を目視できるらしいしな」

「さらっと凄いことを言うわね? でも、どうやって対処したの?」

「精神魔法に犯されていた人々を枢機卿様方が張った結界内に入れていただき、そこでローラン様が別の精神魔法でそれを除去、あるいは上書きすることで解放、または制止といった手段を取りました。ジーナ様はそのための補助ですね。識別の手伝いと処置が成功しているかの確認。必要に応じて魔道具の献上もなさっていました」

「結界・・・外界と遮断してからなら精神魔法の対処もできるってわけね。でも、上書きって大丈夫なの?」

「はい。ご心配の通り、上書きによる処置は対象者への精神操作が強すぎたための苦肉の策。万が一があれば、望福教の教祖から再度上書きされる危険もあります。なので、その方々には申し訳ありませんが、牢の中で過ごしていただいています」

怪しい人物からの怪しすぎる返答に、そういう意味で訊いたんじゃないんだけど・・・と言ったような表情を一瞬見せた後エイラは一言。

「そう・・・・・・」

とだけ呟いて、訂正しようとはしなかった。

多分そんな状態になっている人間の状態こそが大丈夫かと言いたかったんだろう。

―――にしても。

「それはいいんだがな。幾らお前が皇都を出られたからっつっても、それを皇都が安全な証拠にはならねぇんじゃねぇか? 敵にとっては取るに足らねぇ存在だろ。見逃されただけの可能性だって否定はできねぇはずだ」

「確かにその通りです。ですが、私では皇国軍の詳しい情報まで知ることはできなかったので・・・申し訳ありません」

外套を纏った人物は深くまで腰を曲げ、頭を下げる。

「ああ・・。いや、悪かったな。マルチナ。サンパダの所に世話になってるなら、もう少し戦況の話題も出てるかと思ったんだ。他意はない」

「そうでしたか。サンパダ様にお尋ねすればよかったのですね! 次からは是非、そうさせていただきます! ですが、おかしいですね? サンパダ様は商人様だったような・・・?」

俺の返答を聞き、勢いよく身体を起こした怪しい人物は、頭を覆っていた頭巾がその勢いによって後ろへズレ落ちる。

違和感はあった。

ちょっとした仕草や言葉遣いに。

だが、そんなはずはないと打ち消した。

なのに、

「どうか致しましたか? ゼネス様? 名前の呼び間違いなど私は気にいたしませんよ? だってゼネス様からは顔が見えなかったはずですもの!」

「―――ユノッ⁉ なんでお前がここにいるんだよっ⁉⁉」

まさかの人物が目の前に立っていた。