作品タイトル不明
悪夢を冷ます方法を6
「先生。もうあの子達に敵意は無さそうですけど、まだ拘束してないとダメですか?」
「コイツをどうにかするまではな。甘言に踊らされる可能性がある」
足の裏にへばりつく領主を指して言う。
「けど、どうするんです? まだ教祖の居場所は聞き出してないですよね」
「コイツにも言ったが、それはもう本当にどうでもいい」
「えぇっ⁉ でも、それじゃあ―――この後はどうするんです⁉」
「あー・・・まぁ色々と誤解してるのは分かったから説明する。今回の騒動、改宗を起源とする反逆。これは片付けに行く。南の辺境伯領から借りた兵も、もちろん引き連れてな」
ヨハンがあれほど驚いたのは、ここまでの用意をしておいて、目的を完遂せずに途中で投げ出すと思ったからだろう。
そうなったら、この領地以外の反逆に加担した所はどうするのか?
それどころか借りた兵すら、そのまま返すのか⁉
なにより皇王陛下からの勅命だったんじゃ⁉
とか、そんなところか。
「復讐を辞めるっつったのは、教祖を殺すことを目的にするのは辞めるってことだ」
「どう違うんですか? 殺さずに捕まえるってわけじゃないんですよね?」
「元々の予定では、コイツから教祖の居場所を聞き出して、相手に悟られないうちに近付いて殺すつもりだった。まぁ言っちまえば暗殺計画だな。そうでもしねぇと厄介なことになるとも思ってたからな」
「厄介なこと?」
「ジェイドの家で説明しただろ? 教祖は身体を乗り換えられる」
「あ! そういえば言ってましたね。悟られないようにっていうのは」
「その可能性を下げつつ、確実に殺すためだ」
「なるほど・・・だったら復讐を諦めるっていうのはそれを―――」
「考えない。あるいは止めようとしねぇってことだな。だから、俺達の存在を相手に隠さなくていい。つまり、この現状を隠蔽する必要が無くなるってことだ」
ヨハンは改めて周囲を確認して、理解する。
「敵として認識されれば対策される。それが逃げることでも。だから復讐に拘るなら、目立たないことが重要だったんですね。そして、それが必要なくなったから、全てを公にすれば相手から尻尾を出す・・・と」
「ここは子爵領だからな。この騒動で集まったのは、ほとんどが男爵家だ。子爵家は敵にとっても重要な存在だったはず。それがここまで荒らされれば、何かしらの動きは見せるだろう」
「じゃあもう本当に・・・」
「ああ。コイツには何の価値もない」
落とした視線の先には地面を噛む領主だったもの。
このまま拘束し、皇都へ引き渡せば爵位の剥奪と貴族資格の返還を余儀なくされるだろう。
同情なんざありゃぁしねぇが、
「この際だ。何か言っておくか?」
ヨハンにはあるかもしれねぇと話を振るが。
「いえ、今更ですよ。この人にとって僕は出来損ないでしかなかった。それがわかっただけで十分です」
清々しさと虚しさと、どちらが多いかはわからない。
「ああ、でも。兄や、僕の代わりとして用意された弟か妹は気になります。どうなるんでしょう?」
「弟か妹は恩情をもらえるだろうが・・・兄は成人してるんだろ?」
「はい。僕が学園へ行く頃には、丁度・・・」
「だとしたら厳しいな。良くて使用人、悪けりゃ牢屋行きだろう」
「そうですか・・・兄は、どうだったんでしょう。どうしようもなく協力させられていたのか、それとも。同じ思想に染まっていたのか。恥ずかしい話なんですけど、あんまり覚えてなくて。兄のことさえ・・・」
「事情は後からでもキッチリ調べて貰えるさ。その結果も隠されたりはしねぇはずだ。その情報をもって、思い出すなりすりゃぁいいさ」
「そう、ですね・・・」
もしかしたら、庇ってもらっていたのかも知れない。
そんな都合のいい記憶はもうそうだったのかも。
それでも母親のことを口にしないのは、疑うべくもないからか。
この地での決着はついた。
けれど、ヨハンの心にまで折り合いがついたわけじゃない。
だが進まなければ―――。