作品タイトル不明
悪夢を冷ます方法を5
「本当は、凄く。怖かったんですよ・・・先生が、助けてくれるかもわからなくて・・・雰囲気が違うっていうんですか・・・? 僕が知ってる先生じゃない気がして」
「悪かったな」
出合った時に見た涙より、もっと幼く見える泣き顔に、チクリと胸を刺された気分だ。
「つっても、まだ終わりじゃねぇからな。魔法の維持は忘れるなよ」
「グスッ! はい!」
鼻をすすりながらも元気を感じさせる返事で答える。
これなら魔力の枯渇を心配しなくていいだろう。
晴れ晴れとしたいい気分―――っつーには、背景が似合わねぇ。
それに問題自体は依然、残ったままだ。
「おい。いい加減、反応したらどうだ?」
放置したまま固まっていた領主の腹を蹴っ飛ばす。
「ぐっ⁉ がは‼‼ ――ッ⁉ いったいなにが⁉⁉」
「なにが、じゃねぇよ。お前の幸福ごっこはもう終わったんだ。周りが見えねぇのか?」
「何をふざけたことを―――ッ⁉⁉⁉」
すぐに俺から視線を切り、そして周囲の惨状を知る。
「な、なにがあった⁉⁉」
「よく思い出せよ。見てただろ?」
「見てなどいない‼‼ 決して、断じて、私は‼‼ 何も‼‼‼」
そうは言うが、呼吸は荒く、視線も定まらない。
当たり前だが、見ていないわけがない。
むしろ、きっちり目撃したからこそ、放心していたわけだしな。
「まぁどっちでもいいさ。てめぇを守る奴も、助ける奴も。いねぇことだけが事実だ。その上で一応、聞いておくが・・・・・・教祖はどこにいる?」
「知らん‼‼ 私は何も知らんぞ‼‼」
それが本当でも、嘘でも。救いようのねぇ奴だな。
そう思って視線を外すと、憐れみの視線が刺さっていることに気付いた。
その視線の主はヨハンに他ならない。
自分を出来損ないと捨てた憎き仇でありながら、確かに血の繋がった肉親でもあったはずの男。
けれど。
ことここに至って、胸の内に残ったのは憐れみだけだったようだ。
必死に現実から目をそらし、蹲って逃げる大の大人。それが親ともなれば、込み上げるのは憐憫であって然るべきか。
「その言葉。皇王陛下が信じてくれるといいな」
「ッ⁉⁉ 待て‼‼ 私を更迭するつもりか⁉⁉」
「それ以外にどうしろってんだよ」
「教祖様のことはどうした⁉⁉⁉ そのために――」
「――ああ。そいつはもう、どうでもいい」
「どうでも、いい・・・だとぉ⁉⁉⁉」
足元へ縋りつくように顔を上げたかと思ったら、わなわな震えながら顔を伏せ、それからゆっくりと立ち上がる。
「貴っ様ぁあああああ‼‼‼ そんなどうでもよくなるようなことで‼‼ この私の理想の領地を荒らしたというつもりかぁぁああ‼‼ へぶッ⁉⁉」
「てめぇの理想なんざ知ったことじゃねぇよ」
掴みかかろうとする領主の顔面をぶん殴って弾き飛ばす。
およそ3回転ほど転がって、うつ伏せのまま動かなくなる。
「領主さま! すぐに助けます‼ だから、僕をお父さんとお母さんに合わせてください‼‼」
そこへ、動きだけ封じられた子供から声が。
さらにはその声に触発され、『僕も、私も』と輪唱のように重なっていく。
「っ‼‼ そうだ‼‼ まだ出来損ない共がいるじゃないか‼‼ なんのつもりか知らんが、その出来損ない共を殺せんのならいずぁッ―――⁉⁉」
「いい加減黙っとけ」
しつこく上げた頭を上から踏みつぶして土を食わせる。
「ガキ共‼ お前らもだ。お前らが生きていられるのは、そこのヨハンがどうしてもっつったからだ。そうじゃなきゃどうなってるかぐらい、周りを見りゃわかるだろうが‼ それとも、暗いから見えねぇとでも言うつもりか? 明かりでもつけりゃわかんのか?」
そう言いつつ、光球を作る。
半端に揺らめいていた光が、より強く安定した光に飲み込まれて輝きを失うと同時。辺り一面に横たわる影が強く、濃く浮かび上がる。
「ひっ―――⁉⁉」
誰の悲鳴か。
だがそれは、眩しいから出た声なんかじゃねぇ。間違いなく、恐怖を感じて競り上がった悲鳴だった。
まるで今初めて気づいたような。
そんな悲鳴だった。
周りが見えなくなるほど、それほど必死で戦ってたんだろう。