作品タイトル不明
悪夢を冷ます方法を4
終演は近く訪れた。
無理もない。
相手は兵隊にもなれやしねぇ中途半端な自警団崩れと暴徒。
衝動のままに戦略もなく、ただ突っ走るしか出来ない人の群れ。
元々、次が居なくなるまでは時間の問題だった。
「もう出て来ねぇらしいな」
「そうみたいですね。子供達も止まってくれたようで・・・良かった」
「まだ元気に騒いでるけどな」
「これ以上出てこないって意味ですよ! わかってて言ってますよね⁉」
数えきれない死体の山。
動きを封じ込められた子供達の周囲には、地面を埋め尽くすほどのおびただしい数の死体が転がっている。
この中に家族が含まれてなきゃいいが・・・いまさら言っても仕方ねぇか。
そんな後ろめたさを隠しての軽口だったが、思いの外ヨハンの反応は明るかった。
「それにしても、やっぱり先生はすごいですね」
「こんな状況で言われてもな。喜べるようなことじゃねぇだろ?」
「そうじゃなくて―――ッ! いえ、そうなんですけど・・・こんな感覚を持ってて、それでもずっと。我慢してきたんですよね?」
感覚。
魔力が自分の許容を超えるあの、ジーナが超越とか名付けた感覚のことか。
「そうでもねぇよ。お前らに見せてなかっただけだ。俺だって、年甲斐もなくはしゃいだもんさ。その結果がどうだったか知りたけりゃ、サン達にでも訊いてくれ」
「何があったのか気になりますけど、訊きたいような・・・訊きたくないような・・・その時も、こんな?」
「ここまで派手にぶちまけたことはねぇよ。理由もなかったしな」
「理由・・・・・・すみません。僕のせいで・・・・・・」
「お前のせいじゃねぇ。気にするなつっても、お前は気にするんだろうな」
「そう、ですね。僕のわがまま―――」
「だから!」
自分の気持ちなんてもんを、口にするのは気恥ずかしい。
どれだけ生きても。
きっとそれは変わらない。
「お前のおかげだ! ヨハン! 俺はお前のおかげで、思い出せた! なにをするべきだったかを! どうあるべきだったかを! だから!」
それでも、言葉にするべきなんだ。
「ありがとう。ヨハン」
それが感謝ってやつなんだ。
「どういう・・・意味、ですか・・・・・?」
「言葉通りの意味だ。俺はお前に感謝してる。ただそれだけだ」
「どうして⁉」
「言っただろ? 思い出せたんだ。俺の進むべき道を。もう少しで違えるところだった。クライフが、ベルが、グレアムの爺さんが、アンナやエリック、フェリシア。あるいはジェイド達も。その全員が、俺のために示してくれた道を。間違えるところだった。それを正してくれたのは、お前の強さだ」
「僕の、強さ・・・?」
「俺は諦めてたんだ。失った絆を、関係を悼んで。その先を生きることを。そしてその口実を復讐に求めて、逃げた」
そうだ。
『復讐なんぞくだらない』グレアムの爺さんなら、そう言うだろう。
あの爺さんが死に際に言うとすれば、『孫娘を頼む』これに尽きる。
自身のことではなく、未来に思いを託すはずだ。
その一端を。俺に―――任せてくれたはずだ。
そこに在ったはずの信用を。俺は見落としていた。見ないようにしていた。
自分の勝手な気持ちだけで先走り、非情を装って私欲に耽った。
こんな惨状にしたのはヨハンのわがままなんかじゃない。
俺の我欲に他ならない。
憂さ晴らし。そう言って差し支えない。
けれど、ヨハンは違った。
まさか高所から飛び降りて、自分の未来を捨ててでも、誰かの未来を救おうとした。
それこそが俺に必要だった覚悟。
自分の思いを曲げてでも、誰かの願いを許すこと。
それは。
人と関わり、意思を交え、自らを生まれ変わらせるような。
人としての進化の覚悟。
俺にはそれが足りなかった。
あるがままでいたい。変えたくはない。変わりたくもない。
そんな矮小なみすぼらしさを・・・父の悪行を受け入れ、自らの道を曲げ、同じ思いをした子供達のためにと立ち上がるヨハンを見て、覚えちまった。
そうなったら、辞めるしかないだろ?
そんな奴が。俺のことを。先生と呼ぶんだぞ。
間違ったままでいられるか。
「助けを求めてでも、正しいと思う選択をする。それには強さが必要なんだ。お前には、それがあったんだよ。ヨハン」
そっと頭に手を置くと。
ヨハンは声もなく、大粒の涙を溢れさせた。