作品タイトル不明
上がる狼煙が呼ぶものは5
おさらいだ。
ガラスなどの透明な板は、明るい方の景色を反射する。
それは光の性質であり、それをそう認識するのは眼の性質でもある。
鏡はこれを利用し、表面にガラスを。その奥に溶かした銀を引き延ばして張りつけ、鉄などの金属で裏を閉じることで出来上がる製品だ。
完全とは言い難いが、魔法での再現も不可能ではない。
1人廊下に取り残された警備。
そいつから少し離れた所で、その意識が幻影のような俺達から外れる瞬間。
俺達は立ち止まる。
同時に、廊下を塞ぐような鏡の壁が足元から這い上がっていく。
当然。鏡の表面は外に向けるし、そうなりゃ反射によって警備の姿が鏡に映る。
1人しかいないはずの廊下にもう1人の警備が。さらによくよく見れば、それが自分だなんてのはすぐにでもバレるだろう。
ただの鏡だったなら。
この鏡は魔法だ。追加の効果も与えられる。
そのための対になるもう1つ。
それが進行方向を塞ぐ正面の鏡だ。同じように表面は外へ向けられていて、半透明な俺達は鏡の裏に挟まれる形で廊下の途中に立往生。
そして、2つの鏡には入れ替わった景色が映っている。
つまり、この鏡が現れた瞬間を見逃せば、俺達は幻影の如く消え失せたかのように見え。且つ、廊下には異変が見当たらないっつー理想の状況が出来上がるわけだ。
だからこそ、
「2階! 屋敷通路! 幻影消失‼ 異常ナーシ‼‼」
などと悠長な報告が聞こえてくるわけだ。
「今の声、記録できたな?」
「はい。多分大丈夫です」
「よし、行くぞ!」
鏡の魔法が解けるが速いか、足元より飛来した影が部屋の前に取り残されていた警備を捕らえる。
「―――ッ⁉⁉ ~~~ッ‼‼」
声など上げる暇もなく、すぐに眠りこけることになる。
意識をなくした警備を立たせる魔法を使って、足元にはいつかの罠を。
その罠にはついさっき記録した音声『2階屋敷通路! 異常ナーシ‼‼』が記録されている。
不要な部分を少々削ったため出来は荒いが、気付かれることはないだろう。
「どうしてそう言い切れるんです?」
「奴らが自分達は立ち直ったと思ってるからだ」
なんてのは、この作戦をヨハンに伝えた時の会話だ。
荒らしに荒らされた状況から、新たな作戦を打ち上げ、それにより一時的ながら混乱を収める事ができた。その事実に、作戦の成果に手ごたえを感じ、冷静に分析できていると思い込む。
一時的な好転など戦場でも日常茶飯事だ。
問題はその好転が何を基に生み出されたか、そして何を生んだかだ。
それらを明瞭にしたうえで、状況の好転を維持し続けられなければ、それはただの偶然だ。
そのことを知るだけの経験が連中にない以上、一時的な好転を功績だと勘違いし、誤った作戦を続けてくれるだろうと読み切った。
「それ、魔法で立たせてるんですか?」
「影吊りって魔法だ。後で教えてやるよ」
壁に張り付く影に合わせて立つ警備を横目に、悠々と扉を開けて中へ入る。
「誰も・・・居ませんね?」
中は本当に普通の部屋だった。
壁、窓、本棚、机、椅子――どこにも変わったところはない。
だが違う。
この部屋は玄関のようなものだ。
ここが入り口。
「まずは隣か」
入って左奥の壁に扉。
用心深い人物であれば、ここからも長い通路を進ませようとするんだが。
「なにも―――ッ⁉」
奥に進んだ先にも警備が居るってことは・・・。
目的地は近い。