作品タイトル不明
施設の因果
取り敢えず、やるべきことはこの施設がなんなのかを調べること。
「あの子供達が運んでる箱の中身・・・見当が付いたりはしないか?」
「そう言われても、ここから見る限りだとただの箱ですからね」
「それはそうなんだが・・・」
丘からあまり身を乗り出すことも出来なければ、箱は完全なる箱だ。天井が開いていれば中身を見ることもできただろうが、きっちり梱包されていては遠目から確認することなど出来やしねぇ。
「箱が行き着く先は煙を噴く施設・・・煙が出るってことは何かを焼いているんだろう。ここの特産物か工芸品辺りの可能性はって意味で訊いたんだ」
「だとしても―――ですよ。名産なんて物があれば、ルーヴェント領の名前はもう少し有名になってるはずじゃないですか。東側領地は国民認識と同様、穀倉地で間違いないんです。大した名産なんてないはずです」
「ここ数年で出来た・・・わけねぇよな」
「はい。僕らは皇都に居たんです。もしそんな話なら、噂だけじゃなく現物も流れてきてますよ」
当然、そんな話を聞いた覚えはねぇ。
「秘密にするつもりなら、こんな目立つ施設を作る意味はねぇ。なのに施設は存在してる。っつーことは、秘密にはしてないが、そもそもの数が足りてねぇから流通してねぇか、あるいは流通させるつもりがねぇか・・・」
「どう違うんですか?」
「前者ならある程度は噂になる。流通してないのは生産力が足りてねぇからだって注釈付きでな」
「だとしたら後者・・・流通させるつもりがないものを生産してる?」
「他があるとすりゃぁ、あの施設が生産所じゃなくて廃棄場の可能性か」
「そっか、廃棄場ならゴミを処理しているだけの可能性もあるんですね」
「その場合は――何をそんなに処理してるのか? って話になってくるんだけどな・・・」
子供達が運べる程度のゴミを処理する施設が必要か? と考えた時、この考えは簡単に否定されてしまう程度の代物だ。
だからこそ、自然と生産所として考えていたし、その考えは間違っていないと思っている。
逆に。もし廃棄場だったなら、それは思っていたよりもずっと闇の深い話であるのかもしれない。
「なぁヨハン。あの子供達が歩いていく方角には何がある?」
テントから出てきた子供達が列をなして歩く姿を指差して尋ねる。
「あっちにあるのは・・・公園ですね。ほら、ここがこう――」
ヨハンは地図を広げて丁寧になぞって示す。
あの元溜め池部分にあるテントは、まず間違いなく失敗作とされた子供達に与えられた居住地。それは出入りしているのが子供達だけの時点で明白と言っていい。
そして荷物を持った子供はあちこちから出てきているが、手ぶらの子供達はほぼ全員が今指差した方角へ向かっている。
「追いかけてみるか」
「あの施設はいいんですか?」
「これだけ厳戒だと近付けねぇからな。箱の中身がわかれば、そこから施設の謎も解けるかもしれねぇだろ?」
そう言い聞かせて、丘から回り込むようにして子供達の後をつけた。
その先にあったのは、
「ここにも・・・見たことない施設が・・・」
公園ではなかった。
ヨハンの漏らした声からも分かるように、謎の施設が公園にもあったのだ。
こちらは煙突もなければ煙も噴いてはいない。
代わりに天井が半球状になっているようだ。
「こっちも警備だらけだな。箱も変わらずきっちり梱包済み」
こうなると八方ふさがりというか・・・。
「先生! なにしてるんですか⁉ 見つかりますよ⁉」
「大丈夫だ。アイツらが見張ってるのはあくまで子供だ。周囲への警戒自体は甘い」
仕方なく、少しでも情報を得るため無造作に木へ登ろうとしているところをヨハンに咎められるが、最早他に打つ手がない。
この元公園は元溜め池と違い、周囲に小高い丘などない。
むしろこの元公園こそが、溜め池などになにかあった時の避難先だったのだろう。一番高い場所に立地している。
少しばかり離れているとはいえ、茂みからじゃ施設を見渡すなんざ不可能。
よって、木にでも登って見渡すぐらいの情報が欲しかった。
まぁそれでも、手に入った情報は天井が透明だということぐらいだ。
「天井が透明なら上から覗けないんですか?」
「半球の上部が透明なのを見ただけだからな。中を覗くには角度が足りねぇ。かといって、これ以上の高さは稼げそうにねぇし・・・雲でもかかればな」
「なんで雲なんか?」
「太陽に雲がかかれば、他の影は見つかんねぇだろ? 影が目立つような事でもバレずに出来るって寸法だ」
そのやり方を簡単に説明する。
空中に氷の板を生成し、その裏側を暗くする。これだけだ。
夜のガラスに室内が映りこむように、透明な板は明るい方の面を反射するという性質がある。
これを利用すれば天井からの眺めを氷の板に反射して、地上からでも施設内の情報を得られるってわけだ。
「それなら僕の魔法で地面に影を作れば―――」
「それじゃダメだ。監視なんて暇な任務、足元の異変にぐらいはすぐ気付く。見上げた時に雲がねぇとおかしいだろ? 同じような理由で、魔法を使って不自然に太陽を遮るのも無しだ。急に影がかかったら、人は空を確認するもんだからな」
ヨハンにも身に覚えがあったのか、言われてすぐに納得する。
幸いにも、空を見上げれば大きな雲が流れている。
じっと待ち続ければその内、太陽にもかかるだろう。