作品タイトル不明
因果の恩情
「・・・ヨハン。怖くなったんだろ?」
「~~ッ⁉」
「覚悟は出来た。そうは言ったが・・・こうやって、その所業を目の当たりにして、想像した。自分の親が俺と対立する瞬間を。そして、その結末を」
ヨハンは俯く。
けれど、それは答えだ。
「別に嘘をついただとか言うつもりはねぇ。したつもりだったか、あるいは揺らいだか。覚悟が絶対じゃなけりゃならねぇ理由はない。実際に直面して、迷うことはある。それは悪いことじゃねぇ」
「でも、先生は――・・・」
「そうだな。俺に止まるつもりはねぇ。必要だったら、誰が相手でも容赦はしねぇ」
「僕は・・・両親のことはどうとも思ってないんです。もうどうにもならないことは、この光景を見れば分かったから・・・ただ両親が居なくなったら、その後にあの子達はどうなるのかなって思ったんです。先生が言ったように、僕が領主になるなんてことを考えて・・・怖くなりました」
確かルーヴェント家の前家長、つまりはヨハンの祖父はもう居ないはず。叔父や叔母の存在には覚えがない。
ヨハンの経緯から兄が居ることと、恐らく後に生まれた兄弟がいるだろうことは分かっているが・・・どちらも望福教に毒されている可能性が高く、頼りにはならないだろう。
「冒険者じゃなくなることがか? それとも、領地を預かることか?」
「たぶん、どっちもです。冒険者じゃなくなればジェイドさん達とはお別れです。ジェイドさん達には目標がありますから。あくまで協力関係ですから、頼れることには限度があります。先生も、さっきのが答え・・・で、いいんですよね?」
「あぁ、俺にもやるべきことがある」
「そうなったら僕は1人だ。この領の人達さえ、僕はよく知りません。内情を調べるにしても、僕1人じゃどうしようもなくて・・・王様はたぶん色々と手を尽くしてくれるとは思うんですけど、それは事件の後始末まで。復興は自分の手でやらないといけない」
実際にはどうなるか、俺にもわからない。
皇王陛下が人を送り込んで浄化を図るなら、復興の手助けまでしてくれる可能性はある。
だが、そこまで力を入れるなら領地を別の貴族に管理させる可能性もある。問題を起こした貴族への制裁と、同じ血筋へ対する疑念を払拭するために。
じゃぁそうなれば、ヨハンが冒険者をやめる必要がなくなるな―――とは、言い切れない。
どちらもあくまで可能性。
なにより、それでヨハンが納得できるかって問題もある。
「けど、もう僕には信頼できる人なんていない。この領の人達の中から見つけようにも、こんな光景を見た後じゃ無理ですよ。でも、あの子達にはちゃんとした幸せを見つけて欲しい。なのに、それができる人間が居ないんです。僕には・・・、僕だけじゃ・・・・・・」
「だからって、お前の両親が目を覚ますことを期待するのか? こんな施設を作った張本人に。そいつの目を覚ましたなんて言葉が信用できるのか?」
「できるわけ、ないじゃないですかっ‼ あんな親の言うことを! その下にずっといた兄でさえ! 今さら‼」
「陛下に頼めば、代理人ぐらいは用意してもらえるだろうが・・・」
「その人があの子達のことを蔑ろにしないとは、言えないじゃないですか」
「それをできるのは自分だけだ」
「だから僕には! それだけの知識や力がないんですよ‼」
「それでも、決めるのはお前だ。何を良しとするか、そのために何を捨てるか。お前がなにかを得るのか、誰かが何かを得るのか」
「そんなの分かってますよ・・・分かってるんですよ! でも‼ いきなり過ぎるじゃないですか・・・・・・そんな、いきなり――」
「――時間はあるぞ」
「え?」
「ここでの事件が終わっても・・・いや、俺が領主夫妻を殺したとしても。皇都から陛下の命を受けた連中が内情を調べるためにやってくる。その間はお前が領主になることもできない。その調査もすぐに終わったりはしねぇ。これだけ多くの貴族や領地を巻き込んだ騒ぎだからな。結論が出るまでにはお前が思ってるよりずっと、時間がかかる」
「どれくらい・・・ですか?」
「さぁな? 少なくとも半年は掛かる。長ければ1年を超えるかもな」
「半年か、1年・・・・・・それでも、決められなかったら?」
「・・・期待でもしておけ」
「何に、ですか?」
「俺がさっさと復讐を果たすことに、だ。それとも、お前も一緒に来るか? この光景を作った元凶が死ぬ瞬間が見れるぞ?」
「やることが終わったら―――ですか。その時は助けてくれるんですね?」
「どうせ暇だろうからな」
「仕事はどうするんです? 教師になったんじゃ?」
「続くと思うか? 似合わねぇだろ?」
「・・・いえ、お似合いだと思いますよ。先生」