作品タイトル不明
陰湿な温室
「先生、こっちです」
ヨハンの先導に従って狭い路地を進む。
「結局こうなるか・・・」
「なにか言いましたか?」
「いいや、なんでもねぇよ」
小さく零したため息まじりの愚痴を誤魔化して進む。
商店裏口が集まる細道、塀と塀の間、町の隙間に設置された溝の上を進み、高低差を飛び越え、時には屋根の上を渡る。
いかにも子供が見出し、受け継がれてきたような秘密の道だ。
俺自身にも覚えがある。懐かしい感覚が蘇る。
あの時は好奇心を腹底に燻らせていたが、今はただ不快なだけだ。
その差に気付くほど、心が淀むのが分かった。
それを助長させるのは、
「ヨハン。気付いてるか?」
「・・・はい。なんとも言えない気持ちです」
周囲の様子・・・より正確に描写するなら、風景と人の表情が一致しないところだろう。
人の顔や態度は幸福ですと主張している。
ただ1人の例外もなく、たった1人で居る人間でさえ、そんな顔だ。
だが、俺達が通る道は時代に取り残されたかのように痛み、風化し、いまにも崩れそうなほど。
整備がされてねぇ。
あまりにも長い時間、手を付けられずに放置されたような場所が多く目に入る。
仮にも領都だぞ?
その領内では一番人が集まる都。
だってのに、それが目立つ。
通り過ぎるだけの俺達でさえ、無視できないほどに目立ち過ぎている。
「人の数は昔より増えてるんだったよな?」
「そう聞いてます・・・けど、そんな気もしないですね。むしろ、少ないような?」
「少ない?」
「はい。ああ、いえ! 全体というより、その・・・子供が」
そう言われて視線を走らせる。
確かに、道行く誰しもが大人と呼んで差し支えない年齢に見える。
男も、女も、老いも、体格も。
偏ってはいないが、子供だけは見当たらない。
なんなら、子供を連れた親の姿も―――・・・。
「・・・どういうことだ?」
「わかりません。この道を使う時、どこかで他の子供に出合うかもしれないと思ってたんですけど。僕が言うのも変に感じるかもしれませんが、子供には有名な場所も幾つかあったので。なのに、姿どころか声も聞こえなくて」
そういえば、子供特有の甲高い声も耳には届かない。
公園の近くも通ったが、静かどころか無音だったはずだ。
「なにかしらの祭りだとかもないんだよな?」
「この時期には聞いたことがないですね。もちろん、僕が学園へ行ってからここ数年で新しく出来た可能性は否定できませんけど・・・それならそれで、そういう雰囲気くらいあってもいいと思うんですよね」
「祭り独特の喧騒か・・・そんなもんは微塵も感じねぇな。感情の波も見て取れねぇし、間違いなく日常の一部。だとすると―――だ」
子供はどこかへ集められている。
「こういうと悪いが、ヨハン。お前が捨てられたのは―――」
「ギフトのせいですね。親が望んだギフトとは違ったから・・・」
「ギフトの発現は大体5歳前後だが、それまでに親子で同じ意思を持てば、望んだギフトが手に入る・・・ってのが望福教の主張だった」
「その証明のために子供やその親を集めてる・・・?」
「そういう施設を作ってる可能性は高いな。さらに成功例として他の親子を残し、そいつらと交流させることで妊婦や幼子の潜在意識に望福教の理念を刷り込んでるんだろうな」
「そんな―――ッ⁉⁉」
「失敗した奴の管理もできるしでやらない理由がねぇ。だが、そんなもんがあるなら当然。施設の管理者や指導者は望福教に根深く関係しているはず」
だから、なんでそんなことを訊くのか? って気にしてやがったんだな。