作品タイトル不明
不穏に揺れるは2
「意外と早かったな」
「新兵とはいえ、その手の訓練ぐらいは修了してるさ。それに元難民なんだ。野営の手際が悪いなんてことはないさ。見つかるようなヘマもね」
街道からは一定の距離を置いた林の中であっても、火を焚けば煙があがる。夜ともなればその明るさも目立つ。それらを隠すのは知識と経験。
ケイが面倒を見ている200余名は北大陸からの旅人でもある。
その辺りの常識を持ち合わせていたからこそ、生き残ってこれたんだろう。
「それで? どうやって、あたしらに手柄を揚げさせてくれるんだい?」
「なんの見通しも立ってねぇ現状じゃぁ作戦もクソもねぇよ」
「あっはっは! そりゃあ良かった。今からガチガチに計画を練ってるんじゃ、どうしようもないと思ってたところだからね」
急に大笑いをするケイのそんな態度に驚いたのはヨハンだ。
「えっ⁉ どういうことですか⁉」
「前もって作った計画なんてさ。大抵上手くはいかないもんさ。現場を知らなきゃ指揮なんてできないだろう? なのに、今この時点で細かいところまで考えてるようじゃ信用できないと思って声を掛けたまでさ」
「普通は何も決まってない方が不安なんじゃないんですか?」
「もちろん。そういうこともある。例えば、そうだね・・・この瞬間に方針さえも決まってない―――なんて状況だったなら不安にもなっただろうさ。けど、そんなことはないもんでね。アンタの先生はいくつかの目標は定めてある」
「目標・・・教祖の人を逃がさずに殺すこと、ですか?」
「それもそうだけど、あたしらと組む時にもいくつかの決まり事を作った。損益を避けるために無謀な行動をとらせないだとか、直接教祖と対峙させないとか、そう言った保険みたいなもんをね」
「それが保険になるんですか?」
「口約束じゃ信じられないかもしれないけど、きっちり書面でも交わしたし、何よりその相手はあたしじゃあない。南の辺境伯様その人との誓約だ。もし守られなかったとしても、補填くらいはあるはずさ」
「補填・・・それって・・・」
「アイツらが死んだ場合、金が出るってことだね。もしくは、近縁の誰かに職が与えられたり、ね」
「それだけで、ですか?」
「それだけって・・・アンタね。確か冒険者だろう? だったら同じさ。命と引き換えに金を稼ぐ。違うのは規模と敵ぐらいじゃないかい?」
「それは分かるんですよ。逃げられないことも。ただ・・・」
「それでいいのか――って? 戦争なんてそんなもんさ。多分ね。あたしらだって、戦争大好き人間じゃない。それに、今回みたいなのは戦争と呼ぶべきかも、よくわかってないよ。ただ・・・生きるためには~ってやつさ」
「でも、僕なんかのために・・・・・・」
その言葉を聞いたケイは目を丸くしてから、
「あっはっはっはっは‼ そりゃ勘違いだよ‼」
大きく笑って否定する。
「なにかと思ったらそんなことかい。そもそもで言やお国のため、だろう? その次は自分のため、そのまた次は仲間や家族のためさ。だれもアンタのためだなんて考えちゃいないよ」
「そうは言っても、この領地に来たのは僕のせいで、それは僕自身のためで、それに! もし僕が失敗したら・・・ここで多くの人が・・・・・・」
「そんなことに責任を持つのは指揮官だけでいい。そうじゃないかい?」
勇気付けてやれ、とばかりにニヤッとした表情のケイから視線を受ける。
「そうだな。それに教えただろ? 冒険者にもしなんてもんはねぇ。良くも、悪くもな。なにより言ったはずだ。こいつは俺の復讐なんだ」
ヨハンは賢い。
自分の覚悟だけで話が終わらないことをわかっていた。
俺の方こそ、そんなことを無いもののように扱っていたが、巻き込まれる人間はいる。
それは敵だけじゃない。
それに気付いて、迷って。
だってのに、俺にはどうでもいいことだと思えて仕方がなかった。
どうせ、居ても居なくても。
やることが変わるわけじゃねぇからだ。
精々都合よく扱う駒。
損益の保証は辺境伯に対して、だ。
被害を出さねぇなんて約束もなければ、圧倒的戦力差。無事でいられるわけがない。
そしてそれを一番敏感に察知していたのは、他でもないヨハンだった。