作品タイトル不明
不穏に揺れるは1
パチパチと音がする。
暗がりを照らす光の中から、それは聞こえる。
「どうかしましたか?」
不意に聞こえた一言は、心の臓を握り潰すかのようだった。
「・・・・・・ヨハンか。どうした?」
「寝るにはまだ早いですから」
焚火を囲むように隣へ座る。
「見張りはどうですか? なにか、あったんですか?」
「いいや。行くのと来るのを1組ずつ見たぐらいだ」
「こんな時間にですか?」
「隣の村までは馬車で5~6時間なら、まぁ普通だろう。行きは野営の準備中に見たしな。夕方に出りゃぁ夜中までには辿り着く。よっぽどの危険地帯でもなけりゃ問題にはならねぇよ」
ただ護衛も無しってのは、治安の良さに甘えすぎな気もするが――なんて、その言葉を飲み込んだのは望福教の統治について触れたくなかったからだ。
野党が出ないほどの統治。
ある意味では素晴らしい結果じゃねぇか。
自分を不用品と追い出した故郷が、他では見ないぐらいに平和だった。じゃあ、納得いかねぇだろう。まるでそれが正解だったみたいに思えて。
「そうですか・・・だったら、さっきはなにについて考えてたんですか?」
「なんでそんなことを聞く?」
「興味本位――って言ったら、答えてくれますか?」
「そんなわけねぇだろ?」
「そうですよね・・・先生が。悩んでるように見えたから・・・ですかね」
悩んでいることが悪いのか? と言えば、悪いんだろう。
俺はヨハンやリミア。挙句はジェイド達さえも巻き込んで、私情を晴らそうとしている。
その俺が迷ってていいわけなど、あるはずがない。
だからきっと、ヨハンはこう言っているんだ。
不安にさせるような態度を取ってくれるなと。
自分の覚悟に。一世一代の決意に。水を差すような真似はするなと。
そう言っているんだ。
「・・・教祖の殺し方について考えてた」
「――ッ‼ 殺し方・・・ですか」
「こうやってわざわざ居場所を教えてきたんだ。見つけることはできるだろう。問題は、どうやって殺すか・・・もっと正確に言うなら、どうすりゃぁ逃がさずに殺せるか、だ」
「確かその教祖っていう人は、精神だけを他の人に移せるんでしたよね?」
「ああ。だから、その精神を逃がさずに殺す方法がねぇかを考えてた」
「今回で決着をつけるため、ですか? それとも、これ以上被害を出さないため?」
どっちの意味も含んではいるが、言葉にするなら多分違う。
「・・・この手で決着をつけるため、だろうな」
「この手で・・・」
自然と握りこんでいた拳をヨハンが見つめる。
「先生。言ってましたよね? 実感だけは残るって」
「見てただろ? 年明けに北の領地でやったこと。俺は似たようなことを過去にもやってるし、その時は1人じゃなかった」
「その時から、ずっと・・・?」
「なんとなく、な。そのおかげで冒険者になる時も、なった後も困ったことはなかったが・・・お前の場合は違う。俺が殺したのは死んで当然の連中だった。奴らは犯罪者だからな。刑が重すぎるなんざ言われようが、だったらそんなくだらねぇ真似をしなきゃよかっただろって、言えば良かった」
あくまでも、死ぬべき理由があった。殺されるだけの原因があった。
「だが、お前の親殺しには大義こそあれ、理由も原因もその所以は自分にある。ふと思い出した時、罪の意識に苛まれることもあるかもしれねぇ。後悔することだってな。だから何度でも言う。そうならねぇための覚悟はしておけ」
「覚悟ならもう―――」
「そうじゃねぇよ。許す覚悟だ」
「許す・・・? あの親を、ですか?」
「自分を、だ」
「・・・自分を?」
「理想通りにいっても、いかなくても。よくやったんだと自分を許す覚悟だ。成功の末に込み上げる罪悪感も、失敗の果てに湧き上がる虚無感も。許してしまえる覚悟があれば、お前はその実感さえ糧に出来るはずだ」
「失敗しても・・・自分を許す。先生もそうやって?」
「昔はな。事ここに及んでは、引き下がるなんざ出来やしねぇんだよ」
だからせめて、お前だけでも。
この言葉だけは言ってはいけない。
どの口が――って言うのもそうだが、こんな言葉で縛るわけには。
呪いを残すわけには、いかねぇんだ。
「引き下がらないってのはいいんだけどね? あたしらのことも忘れて貰っちゃ困るよ?」
自分のくだらなさに歯噛みしている所へ、まぎらわしい名前のケイが宣う。