作品タイトル不明
動き出す時
「・・・僕も、戦います‼」
決意に満ちた表情でヨハンは言う。
それを見る俺はどこまでも冷静で。卑怯にも、そうだろうな。という感想を抱いていた。
「わかってるのか? お前は――」
「わかってます! でも‼ 僕にとって大事なのは今なんです‼ 今のこの場所・・・迎えてくれる仲間が居る冒険者としての自分なんです。だから、家族なんて――」
「後悔するぞ? 俺が言うのもなんだがな」
どの口が、と自分でさえ思う。
例え憎らしく思っていても、俺は家族に手を掛けたことはない。
その手伝いをしたこともない。
その機会がなかったからだと言えばその通りだが、大義名分があったとしても俺は――・・・。
「先生なら降りますか? この戦いから・・・」
「・・・降りないな。血が繋がってようが、絆がなけりゃ他人と同じだ」
「ですよね。だから僕も逃げません! 本当は怖かったんだと思うんです。また否定されるのがわかってるから。だって僕は出来損ないで。家族になれなかったんだから。会いに行っても、どうせ・・・だけど! そんな人達を認めなくていい。僕が正しいんだって! 証明していいんだって‼ だったら‼ 僕は‼」
あの時の涙を思い出していた。
その話を聞いた時の。
あの涙は悲しさからくるものじゃなかった。アレは悔しさをにじませた涙だった。
そうだ。だから俺はヨハンに約束した。
誰にも文句を言わせない生き方を教えてやると。
けれど、その結果が親殺しへの道か。
俺はつくづく・・・―――。
「リミア。お前はどうだ?」
「私は・・・・・・」
この場において、一番戸惑っていたのはリミアだった。
当然だろう。
家に問題があることは理解していたとしても、親が急に国王へ弓を引くような行為に出るとは普通思わない。
その上、知りたがっていた教会の裏を最も知っていたであろう教皇は死に。それに乗じて動き出した親とは会話も出来やしない。
かといって、どちらかに便乗しようにも、自分自身は冒険者。立場を放り捨てて行くには責任感が邪魔をする。
しかも、これまで苦楽を共にし、命を預け合った同期の仲間であるヨハンが、親を敵に回してでも戦場へ出るという。
安易に決めるにはあらゆる要素が多すぎた。
「道理ではわかっているんです。国王様に逆らっていいはずがない。ですが、だからと言って父を殺すなんて・・・」
「それが普通だ。けどな。そう思えばこそ、最前線へ向かうべきかもしれないぞ」
「どういうことでしょう?」
「今回の内乱が長引けば、皇王陛下は鎮圧のために全兵力差し向けることになる。帝国や南の霊峰への余力も残さず、本当の意味の全力で。そうなりゃ完全な決着がつくまで殲滅戦が繰り広げられることになる。首謀者とされる人物が生き残れる道は・・・万に一つもないだろう」
「そんなッ⁉」
「だが、この内乱がすぐに鎮圧されれば、首謀者とされる人物の事情も聴いてもらえるだろう。鎮圧に貢献した人間からの嘆願であれば、更にその確率は上がる。刑が軽くなる可能性もな」
「・・・そうすれば父は助かる」
あくまでも可能性だがな。そう言い含めるように繰り返す。
巧みな話術で。さもそれが正しいかの如く、誘導している。思考を。
年齢の半分もいかないような子供を。戦場へと。その最前線へと。
連れ出そうとしている。
吐き気がする。
あってはならないことだと、糾弾する者も居るだろう。
それでも俺は。
立ち止まったりなどしない。
そう決めた。
自分本位に進むのだと。