作品タイトル不明
止まらない時
「考えられることがあるとすれば、教皇様には正門前での騒動”以外”にも、望福教との接触があった・・・とか、かしら? それなら条件を満たすっていう行為に時間を掛けられたんじゃない? ・・・・・・でも、だとしたら。誰がどうやって―――? とは、なるけれど」
「・・・・・・多分、グレンゼーだ」
「グレンゼー?」
「爺さんの実の息子で、望福教の教徒。以前の騒動では教祖の側近のような立場にいた」
「教皇様の息子なのに望福教へ・・・?」
「加護レベルの低さが原因で袂を分かったんだ。それが俺と爺さんをめぐり合わせた要因でもあった。当時の爺さんは後悔してたんだ。息子を理解してやれなかったことを、自分の立場に固執して喧嘩になったことを、自分さえ正しくしていれば――なんつー勝手な理想に夢見たことを。だから、加護を持たない俺に接触してきた。加護なんざなくても、幸せには成れたはずだと確かめるためにな」
だってのに、奴は。それさえもを利用して・・・・・・―――ッ‼
「まだ、そう決まったわけじゃないんでしょ? だったらそんな顔しないで。私達に見せられたって、どうしていいんだかわからないわよ」
「・・・そうだな。この後にでも教会へ寄って調べておく。悪かったな」
俺はどんな顔をしていたのか・・・。
親を殺すために、親から向けられた愛そうという情を利用する男のことを考えていた。その死を、わかって協力したのか。それとも、何も考えていない馬鹿だったのか。
いずれにせよ。
俺には許せそうもねぇ。
悪いな爺さん。
願いはきっと、叶わない。
「でも、先生はその人のことを・・・殺す、んですよね?」
恐る恐るといった様子でヨハンが声に出す。
「ああ。確実にな」
「それで・・・いいんですか?」
「爺さんはそんなこと望んでねぇだろうって? わかってるさ。だが――」
「そうじゃなくて!」
ヨハンは必死になって尋ねる。俺の言葉さえ押し退けて。
「その、自分の都合? だけで。勝手な気持ちだけで、人を殺しても・・・いいんですか?」
「普通なら良くはないだろうな。そんなことをすりゃぁ、殺人犯として捕縛されるだけだ。だが、今回の事は訳が違う。反逆者の粛清という大義名分がある。これは戦争と同じだ。敵を殺せば英雄になる。そういう戦いだ」
「王様の命令があるから。だから罪なんかなくて。だから気にする必要もない。そういうことですか?」
「―――・・・表向きはな」
「表向き・・・?」
「本当はそんなことどうだっていいんだ。言ったろ? 俺のは復讐だ。私怨を晴らす。ただそのためだけに皇王陛下の言葉さえ曲解して利用する。罪には問われないかもしれねぇが、実感は残る。残り続ける――・・・この手に。自分の都合だけで人を殺したんだっていう実感だけはな」
「・・・・・・実感」
ヨハンは自分の手を見つめる。
人の命をその手で握りつぶすことを想像して。
いや、そんな想像を正確になんてできるわけねぇか。
ただ漠然と考えているんだろう。
親に逆らうということを。
失敗作として親から切り捨てられたヨハンにとって、それは大きな戦いだ。
冒険者になったのも、家に帰れないからという後ろ向きなものだった。
本当は望んでいたのかもしれない。
親との再会を。そして、和解を。
だから、ヨハンがここで戦わない事を選ぶのであれば、強要はしない。
ただ俺は。
そうなるとは微塵も思っていなかった。