作品タイトル不明
妄執は目を眩まし、外れに当たる
「私の名前はローラン・C・トー。よろしくお願いします」
そう言って見開かれた目はなんの変哲もない、ただの人の眼だった。
ローランは一礼をし、そのまま動きを止める。
そこには拭い切れない違和感だけが残った。
「どう? これでわかった? この子は――――・・・・・・」
煌びやかに着飾った女は勝ち誇ったように話し出すが、そんなことはどうでもよかった。
ローランは教祖じゃなかった。
だったら今のローランの状況はどうなってる? なにより、教祖は誰だ?
ローランはマーテルを人質に協力させられている。
これはマーテルの視点から見た現状だ。
拘束・監視された状態で姉と慕う人間が連れていかれた。幼い少女には、それを覆すだけの力はなく、ましてや嘘をつく理由もない。だから、これは本当のことなんだろう。
だが、ローランから見たらどうだ?
妹のように思っていたのか? 優れた魔法使いとして、現状を打破できなかったのか? 嘘をついている可能性は?
俺はローランが嘘をついているんだと思っていた。
ローランが教祖であることを隠すために、部族全員と同じように拘束され、そこから連れ出されたように見せかけた。
そうすることで、部族から疑われることなく動けるようになり、部族をも自身や仲間を人質に動かしてたんじゃねぇかと・・・そう思っていた。
なぜならローランは精神操作魔法の使い手だ。操られた兵士かその指揮官なら、自身の魔法で上書きして動かせるはず。もしくは、自身が協力する対価として、仲間の待遇を改善させられたはずだ。
そのどちらもが無かったこと、それが俺にそう思わせた。
なのに、ローランは教祖じゃなかった。
それどころか―――・・・操られているようにさえ見える。
ここまでに自発的な言動はなく、今もお辞儀をしたまま固まっている。
そんなことがあるか? そんなにわかりやすいことが? だが、事実だ。
精神魔法の使い手には、それらに対する耐性がある。それが原因か・・・それとも、ローランの意思でわざとそうしているか。
精神操作を嫌って、精神だけを身体から切り離し、間接的に自身を操作している? 出来なくはねぇだろうが・・・そこまでするか? いや、自身の保全を優先するならありか? 直接精神操作される事を嫌がるのは精神操作使いらしくはある。相手が耐性を突破してくるような存在なら尚のことだ。
仮にそうだったとして、教祖は誰になる?
この場に居ねぇなんざあり得ねぇ。
代表同士の直接対決。国盗りの最重要場面だぞ? これ以上隠れてなんの意味がある?
信仰心を利用して代表を擁立しておいて、この局面で様子見? そんなもんはどっちが勝ってもいいと思ってる第三者にしか選べねぇ選択肢なはずだ。
どっちが勝ってもいい・・・あり得るか?
『望福教が皇国の東側で旗揚げをした。今度こそ、大々的に皇王陛下へ迫るつもりのようだ』
・・・この帝国でのすべてが陽動だったとしたら?
そこまでして皇国でやるべきことってなんだ?
恥をかかされた報復か? それなら教皇の暗殺で十分だろう。
そのための下地として、俺を国外へ? そのためだけに? だから、後はどうなってもいいと?
いいや、だがそんな事ができるのは―――。
「なぁ自由騎士。アンタの部下、どこ行った?」
この場には1人しか居やがらねぇ。