作品タイトル不明
帝国へ。五独
その過程で気付いたことだが、
「この地図。よく見たら窓の位置が記されていませんね。これじゃあ余計に現在地がわかりませんよ」
ライザードの言う通り。この地図には窓の記載がなかった。
「侵入口になりそうなもんを書く意味はねぇとでも思われたか・・・」
バレないように中の部屋だとかを確認するが、部屋に名札が垂れ下がっているわけでもなし。
最悪この壁に穴をあけることも考えたが・・・・・・。
そこでふと気になったのが―――階段だ。
崩した方でも、降りるのに使った方でもない。
城へ侵入するために登った方の階段だ。
「俺達が最初に入った部屋に窓はあったか?」
「いきなりどうしたんですか? そんなことを確認しても、窓はこの地図に記されていませんよ?」
「無かったと思う。ほとんど部屋に居なかった僕が言っても信じられないかもしれないけど、もし窓があれば城壁との近さに気付けたと思うんだよね」
「そうですネ。ミーも無かったと思いますヨ。お屋敷やお城の窓なんかは、装飾が凝っていたりしますカラ。そうであればもっと目を引いて、印象に残っているかト」
訝しむライザードを小脇に、フッチとヤーレンが職業柄を理由に無かったはずだと主張する。
「っつーことは、コイツがその階段の正体ってわけだ」
真正面の壁をコンと叩きながら確信を得る。
「なぜ今の会話でそうなるのでしょう? 空洞音でもしましたか?」
ライザードが俺を真似て壁をコンコン叩くが、別にそういうわけじゃねぇ。
「兵隊を隣の部屋に押し込めてねぇお前にはわからねぇだろうが、あの部屋は隣と比べても特別狭くは感じなかった。だが、確かに階段はあった。そうじゃなきゃ俺達は何を使ったのかって話になるしな。っつーことは、可能性は2つ」
狭くは感じなかっただけで実際には狭かったか、感じた通りに部屋の広さは同じだったか。
「あの階段は二重に隠されてた。階段から部屋に入るには天井を開けてから、更に扉1枚を挟んだはずだ。だが、よくよく思い返すと部屋の壁に扉なんてあったか? まぁ隠し通路だってんだから仕掛けぐらいあって当然なんだが、そうすると奥の空間はどうやって作ったのかって話になるだろ?」
「なるほど。だからこの壁の内側が階段になっていると・・・ですが、隣の部屋からこの壁が繋がっているのが見えているなら、隠す意味はあまりないように思えますが・・・」
「よく見ろ。3階に限らず、1階でもこの壁の付近に窓はねぇ。つまり、隣の部屋にも窓はなかったんだろう。あんまり気にしてなかったから覚えてねぇけどな」
ライザードへ向けて、城を指差しながら言う。
城側はもちろん、城壁側にも窓から漏れる明かりが見えていたりはしない。
しかし、そうなると・・・この壁に穴をあけるわけにはいかなくなる。
隠し通路の存在がバレるのもそうだが、ここからの侵入や脱走の問題を抱えることになれば、面倒が増えるからな。
事件を片付けたとしても、交渉で不利を背負うのは避けたい。
流石にないとは思うが、機密の漏洩自体は戦争の引き金にもなり得るしな。
「そういうことはもっと早く気付いてほしかったですが、まあいいでしょう。それで? おおよその現在地は分かりましたが、どうするんです?」
ライザードが地図の一点を押さえながら聞いてくる。
押さえているのは言うまでもなく現在地だと思われる場所。
「あそこの窓から中へ入って、廊下を直進。一番近くの窓からもう一度外へ――ってのが出来りゃぁいいんだがな」
「得策ではない。同じような壁があるかもしれない」
俺の言葉を一早く否定したのはタンだ。
しかも、その言い方からして。分かっているだろう? という空気がある。
俺も同じ事を考えたが、意外にもこういう城だとかに詳しいのか?
「そうだな。それにこの廊下は人が通る。力技じゃ見つかるだけだ」
1階廊下ともなれば、侵入される事を考えた構造をしている。
その対策として分かりやすいのが、極端に長い直線。
たった1人でも同じ廊下に居さえすれば、窓からの侵入なんざ一目瞭然。
時間も格好も関係なしに侵入者と判断して追いかけるべき案件だ。
これを誤魔化す手段ってのは、そう多くねぇ。
大人数で侵入する場合には散開するという方法がある。
追跡する人数より多く侵入し、その上で散り散りになれば、その全員を把握するのは不可能に近く、誰か1人でも目的地へ辿り着けばいい時にはこの方法が効果的だ。
だが、今回はその逆。
1人でも捕まれば余計な手間が増える。
出来る限り覚とられない方がいいとなれば・・・、
「俺が囮になる。その間に客間へ繋がる階段を目指せ。幸いそう遠くはねぇ。反対側に引き付ければ、階段から応援が来てお見合いになる・・・なんつーこともねぇだろう。それでも不安なら階段前の部屋で待機してろ。さっさと合流する」
1人が派手にバレて注意を集める囮作戦。
囮になる人間には多くの能力が求められる。特に追跡を撒く能力なんかは必須と言えるだろうが、俺にその心配はない。
「ゼネス様! 御1人でなんて、本当に大丈夫ですか⁉ もしものことがあったら私は・・・――‼」
自分も連れていけと言いたそうにしているマルチナへ向けて言う。
「忘れたのか? 俺は次元が違うんだよ」