作品タイトル不明
帝国へ。三態
それほど長くはない時間のはずだが、どれぐらい進んだのか・・・感覚が麻痺しかかったころ。
不意に違和感を覚える。
「暗く・・・なってる?」
その正体を先に口に出したのはサンだ。
単調に歩き続けた先に、今までより僅かに暗くなっている側面が見えた。それも、左右両側共に。
「横道か・・・」
「わかるのか⁉」
「恐らく、だけどな。経験の差だろ」
道程の先を暗い――と感じたのは、壁にある光源が減ったからだ。
そして、その経験は既に。あのやたらと白い迷宮で済ませた。
あそこも似たような白と赤の空間だったが、こっちは黒と橙。認識が遅れたのは黒の方が見辛いからだろう。
「見ろ」
少し進んだ先、対岸を指差す。
すると、斜めに横道の先にある壁の光源が見える。
均等だった感覚からズレ、更には見える角度の問題で高さも違って見える灯りは、確かに横道の存在を示していた。
「・・・本当だ。でも、どうする?」
「二手に分かれるってのは、流石に無しだな」
「ああ。危険すぎる。なにより、迷わなくても合流に時間がかかる」
なんて、言っているうちに曲がり角だ。
「・・・・・・そうだ。よく考えなくても、ここは下水道じゃないか」
「あぁ。どっか忘れてたな」
そこで俺達はお互いの間抜け具合を確認する。
そう、下水道だ。それが曲がるってことはつまり、直進する道は存在しないってことだ。なんてったって下水道だからな。真ん中には下水が流れてる。
それを知らせるため、振り返って馬を引いているヤーレンへ合図を出す。ここで曲がるぞ、と。
俺は角の外に立って後続を誘導し、サンは先行して奥を確認しする。
すれ違う間にヤーレンなどと軽く話をしていると、
「ゼネスさん! ちょっと来てくれ‼」
先行していたサンから呼び出しがかかる。
その声は慌てているようで、けれど緊急ではない驚いたような声だった。
俺はすぐさま誘導をフッチへと代わってもらい、サンの下へ走る。
下水に落ちたくはねぇから、足を踏み外したりはしないように、しっかりと注意を払いながら、サンに追いつく。
「アレを見てくれ!」
そう言った先にあったのは橋と、またしても横道。
つっても、橋を渡れば直線なんだが・・・単純に、これほど入り組んでるとは思ってなかった。
しかし、サンが慌てた理由は別にある。
その橋の先、さらに進んだところが――どうも明るいのだ。
「―――・・・音はしねぇな?」
「でも影が動いてたんだ! なにかいると思った方がいいかもしれない」
「影か、今は見えねぇようだが・・・」
「ッ‼ いや、ほらっ‼ 今も‼」
サンが言うように、一瞬だが影が動いたのが見えた。
しかも今のは・・・・・・。
「人影?」
「やっぱりそうだよな?」
これこそが俺を呼んだ理由か。
それにしてもこんな場所に人? いや、あの商人が知ってたんだ。ここには何か、そういう秘密があるんだろう。
かといって、引き返すわけにもいかねぇし、中途半端に馬車だけを置いて出ることも出来ねぇ。
「・・・気を引き締めていくか」
「分かった。けど、穏便に行こう」
「そうだな。ここで戦いたくはねぇ」
鬼が出るか蛇が出るか、はたまたドブにふさわしいネズミか。
厄介事でなけりゃいいんだがな。