作品タイトル不明
帝国へ。三叉
帝都の中心を目指して行くと、上り坂が目立つ。
帝都の城も山の上に作られたのか、あるいはそうなるように土台から作ったんだろう。
そうすると必然的に地面が増えるわけだ。
正確に言うなら、標高が上がった分だけ、空間に存在する地面が多くなる。
つまり、地下という空間が生まれる余地が増える――っつーことだ。
その結果が、
「確かに・・・これはニオイますね」
町の途中。急に姿を現した地下水道という存在。
ライザードがニオイを嫌い、鼻をつまんで肯定する。
「下水道か! それも、かなり広い!」
「あぁ。しかも、左右の川岸が大幅に整備されてやがる。完全な下水じゃねぇところを見るに。地下水脈を利用してるか、途中に浄化の魔法道具でも置いてるんだろう」
俺とサンは並んで驚く。
街中で突如として現れた橋の側には、市場にいた商人が言うような下り坂があり、その先には更に地面の下へ続く横穴と、きっちりと整備された川岸の続きがあった。
「ゼネス様達はこのニオイの中で、よく平然としていられますね」
ただその光景に驚く俺達へ向けて、マルチナがライザードと同じように鼻をつまみながら言う。
「人に限らず生物のほとんどは糞袋だぞ。モンスターと戦うのが日常の冒険者がこんなニオイ如きでどうこう言うかよ。それに言ったろ? これは完全な下水じゃねぇ。大分薄まってる。普通に比べりゃマシな方だってことだ」
「折角綺麗に首を落としても、解体で失敗して内臓を破く――なんてことは、駆け出し冒険者にとってはよくあることだからな」
「それで喧嘩になってしばらく空気が悪くなったりな」
「そうそう! 確かに空気は悪くしたかもしれないけど、仕方ないだろ! ・・・って。それで、文句があるなら自分でやればいいんだー・・・とか言っちゃって、最悪解散になる」
「ハッ! 何度聞いたことか・・・」
「なのに・・・しばらくしたら、また一緒にいるんだよ」
「大体、どこもそんなもんだって先輩冒険者から言われてな」
俺とサンは懐かしくすらある冒険者の定番話で笑い合う。
だが残念ながら、これに頷けるのは蒸気の騎乗者の面々だけだった。
ヤーレン、マルチナ、ライザードはニオイにやられたしかめっ面のまま。
「・・・これでも巻いてろ」
商品を積んだ馬車からヤーレンが持ち込んだバンダナを取り出し、浄化の魔法を掛けて3人へ渡す。
「巻いてろ―――と言われましてもね・・・こう、でいいんでしょうか?」
「おう。いつもより男前になったじゃねぇか」
「この僕が皇王なら侮辱罪で投獄するのですがね」
どこぞの盗人よろしく、鼻と口を覆うように逆三角にしたバンダナを顔に巻くライザード。残り2人もそれを真似して効果を実感する。
「流石ゼネス様ですね! これなら気になりません!」
「便利な魔法を知ってますネ? それとも、これも冒険者の備えですカ?」
「少なくとも俺達は出来ないから、常識外れですよ」
「俺がおかしいみたいに言われてもな。浄化の魔法道具は有名どころだろ」
「デハ、皆さんはその魔法道具をお持ちですカ?」
「まさか。魔法道具は基本的に高価だから、蒸気の騎乗者では持ってません。その中でも有名な浄化なんて、高すぎて手が出ませんよ。それにそんなものを常備できるなら、悪臭に慣れたりしませんからね」
「戦闘でしか使えねぇからだろうが、罠とか攻撃系の魔法道具はそれなりに安いんだけどな。それに、俺も魔法道具の方は持ってねぇぞ? たまたま元の浄化魔法を使える奴が近くにいて、それを見て覚えただけだ」
「自分で使える魔法の道具は買わない。見ただけで使えるようにもならない。それが普通」
最後にはなぜかタンに首を振られ、静かに止められた。