作品タイトル不明
帝国へ。二乗
「結局のところ。カーナ派閥の目的が見えないことが不気味だ、ということですね。急遽動いたにしては動員が多く、事前に準備していたにしては他国の人間に頼っている。不思議に思うのも当然でしょう」
ライザードがわかりやすく話を戻す。
「そうだ。もちろん、カーナが溺愛されてただけだってこともあるだろう。ただ、俺達は部外者だ。楽観視してたら食い物にされる。それがアイツらの思惑じゃなかったとしても、結果的にそうなる可能性がある」
「そうならないために・・・あるいは、そうなった時のために。最低限目標を決めようってことですね。なにがあっても、それだけは手に入れて帰る。そういうものを・・・」
「ああ。今のところ考えてるのは、ヤーレンがいう部族の回収。それだけだ。戦争の回避はそこに入れなくていい。手を抜くつもりはねぇが、俺達だけでどうにかできる話じゃなさそうだからな」
「なぜでしょう⁉ ゼネス様はそのために来られたのでは⁉」
「言っただろ。部族を回収する以上、捕虜の扱いには口を出さざるを得ねぇ。もし意見が食い違った時には、無理やりにでも連れて帰る事になる。交渉なんぞをすっ飛ばしてな」
「そうなれバー、向こうの面子は丸潰レ・・・いいんですカ? 我が部族のためニ・・・・・・」
「そうまでする価値がある・・・と、言い切るには足りねぇが。あっさりと捨て置けるもんでもなさそうなんでな」
「感謝します」
膝をついてまで深々と頭を下げるヤーレン。
やはりコイツを間者だと疑うのは酷か。
「つっても、今んとこ部族に繋がる情報はねぇ。連中の縄張りが北側な以上、直前までその存在や、居場所さえ分からねぇかもしれねぇ。情報の扱いには注意しろよ? 焦りは禁物だからな」
「ハイ。誓って、そのようなことはないようニ」
恐らく部族のなにかしらであろう所作で誓う。
「さて、これで1つは決まったが・・・他はどうする?」
「他ですか? ゼネス様は他に目的があったのですか? 私はてっきり先程の2つだけだと思っていましたけど・・・」
「まぁ、いくつかある。例えばカーナの勝敗。ミョヒリー共和国への干渉の中止。後は・・・そうだな。帝国内部の被害をどこまで受け入れるか―――とかな。皇国として考えるなら、帝国には疲弊してもらった方が有難いが」
「もしかしなくても、それは俺達に言ってる――ってことでいいんだな?」
ここぞとばかりに送った視線に、サンが応える。
「被害を抑えようと思ったら、一番苦しいのは護衛であるお前らだろ?」
「それで。ついでだから、その許容量を俺達自身に決めろっていうのか?」
「俺が見捨てろっつって、お前らは納得できるか? 目の前で死にそうな奴を、無視できるか?」
「ふぅ・・・痛いところを付くな。相変わらず」
「冒険者なら、必要とあれば仲間でさえ見捨てなきゃならねぇ瞬間もあるが、蒸気の騎乗者はそういう環境に居なかったはずだ。それ自体を責めるつもりはねぇ。なににどこまで命を懸けるかは自由だ。が、外にまで手を伸ばそうってんなら話は別だ。手の届く範囲、持てる量には限界がある。ましてやここは帝国。無理も無茶も利かねぇからな」
人の命に垣根を設けようっつー話をしてるってのに、サンはフッと笑う。
「優しいんだな。ここでもし俺が、目に見える限り。全部を救いたいって言ったらどうするんだ?」
「説得するさ。それができなきゃ・・・ここでお別れだ。お前らには皇国へ帰ってもらう」
「帰らないと言ったら?」
「殴って気絶させてから荷物として輸送する」
「物騒だなっ⁉ なんで、そこまでするんだ?」
「俺が――・・・お前らを見捨てらそうにねぇからだ」
「ハハハ! 冒険者らしくないな?」
「随分前に辞めちまったからな」
「そうか。そうだな。それなのに、こんなことまでやってるんだよな・・・。分かった。なにかあっても、助けるのは本当に目の前だけ。手の届く範囲に限定する。それも近寄らずに、魔法で救出できる範囲に」
「いいのか? 後悔することになるかもしれねぇぞ?」
「仕方ないさ。もっと失い難いものがあるんだから」
爽やかに笑うサンの顔を見て、改めて思う。
失いたくないものが増えたと。冒険者をやめてから、そう思うものが多くなったと。