作品タイトル不明
帝国へ。二役
「ハーイ! 珍しいものありますヨ―! よかったら見て行ってネー!」
これまでの町や村とは比較にならないほど栄えた大都市。
市場の片隅で、今まで以上に声を張って客を呼ぶヤーレン。
客入りはそこそこ。
値切り無しに買っていく客はほとんどいないが、売れ行きはいい方だ。
そんな懸命に働くヤーレンを横目に、俺はのらりと商品の補充を行う。
この役は今までマルチナがこなしていたが、ここでは特別だ。
なんてたって、カーナの陣営から接触がある。
客を捌く傍ら1人をどこかへ連れ込めば、どう考えても目立ちすぎる。
っつーわけで、今日は俺がこうしてる。マルチナはライザードと留守番だ。
蒸気の騎乗者も買い出しで外してるし、ヤーレンと2人・・・その瞬間を待ちながら過ごした。
「すみません。少しいいですか?」
「どうかしましたか?」
そんな折、スッと年季の入った主婦然としたご婦人が現れた。
「探しているものがありまして・・・」
「なにをお探しで?」
「それが・・・私にも”わからない”んです」
「――!」
これは前もって決めていた合言葉。
探しているものが”わからない”。お使いの時など稀にある事象。
頼まれたはいいものの、現物を見たことがない。あるいは、間違ったものを頼まれた、覚えていた場合など。
店頭で長く会話してても、不自然にならねぇ秘策・・・らしい。
「そうですか・・・それは困りましたね」
「そうでしょう? 旦那に頼まれのはいいんですけれど、どうも取り扱っているお店が無くて・・・・・・その点、このお店なら珍しいものを扱っているでしょう? だから、もしかしたらと思ってね?」
「どういったものを頼まれたのでしょう?」
「なんでも測りが欲しいと言ってたんですが、定規や天秤では無いみたいで、持って行ってもこれじゃないとしか・・・」
「測り、ですか・・・こちらにある物ですと、この水平を調べる測りのみ。他となれば、商品の値段を測るこの目ぐらいしかお出しできませんねぇ」
「あら、面白い方ですこと。それじゃ、その水平の測りが、妥当な値段か測ってみて頂戴な」
「それでは失礼いたしまして。こちら水平器と申しまして、置けば簡単。平がわかる。一度胸に置きますれば、機嫌もわかると旦那様方に人気の代物。お高く留まったお嬢さんも目を剝くそのお値段こそは、胸先三寸に収まらず、あれよあれよと転がり落ちて、なんと驚き底の底‼ 長い旅路くたびれたのか、そこらの物より安いときたんだ! 今こそ買い時、さぁどうだ‼」
事前の取り決め通り、言われた通りに話したところ。婦人はふふふっ、と上品に笑ってくれた。
なんでこんなことを・・・と思うが、行商に外連味は欠かせないんだとか。俺にそう言ったわりに、ヤーレンはこんなことをやりゃぁしねぇ。
まぁ、あの話し方も相当おかしいっつー意味じゃそう違わねぇのかもしれねぇが、果たしてこれでちゃんと伝わったのか?
「ふふ、本当に面白い。分かったわ。それを1つ頂戴な。それと折角だから、もう少し面白い話を聞かせては貰えないかしら?」
「生憎、ここに来るまでつまらない話しか聞かなかったもので、とんと心当たりがないというか・・・・・・」
「そう? なら、つまらない話でも構わないわ。聞かせて頂戴?」
「それがどうにも、噂話なんですが――皆さん信じていらっしゃるようで」
「噂話?」
「えぇ、この国は変わる。新たな教えを賜るんだーとか、なんとか・・・。あちこちで盛大に打って出ているようで、お客さんも注意した方がいい」
「皆さん信じてらっしゃるの?」
「見たところ・・・ですがね。教えとやらがなんなのかまでは、すみません―――ただ、北側ではそれが当たり前のようだったと。皆さん疑わず」
「そう。怖いわね」
「全くで」
その他にも2、3やり取りを挟みつつ、モンスターの話をして去った。
モンスターの情報については、ここらの商工会に聞いた方がいいと言われた。
それも意外だったが、なによりも意外だったのは、さっきの婦人だ。
あの振る舞い、身のこなしはかなり年季の入った従者だろう。しかも随分いいところの、だ。
考えられるとすればカーナが出されたっつー公爵家の使用人。
その中でも選りすぐりが来たと思っていいはずだ。
俺の予想では、軍から若いのが来ると踏んでた。
それぐらいが急遽で動ける範囲だと、思っていた。
だが、公爵家が動くとなると・・・・・・想定していたより、事が大きくなりそうで頭が重くなった。