作品タイトル不明
帝国へ。二歩
「こういうのもなんですが・・・余所者の言葉を信じ過ぎじゃありませんかね? この僕なんかは、それこそ憎い敵でしょうに」
「それを知らなきゃ、誰しもがただの人間だ。欠けた情報からは都合のいい事実しか掬いあげられねぇよ。ここでの俺達は行商人とおまけ。その信頼が売買によって成立している以上、余計に踏み込んでくるもの好きでもなけりゃ疑う理由がねぇ」
「そうかもしれませんが、もう3つ目の町だと言うのに、そんな物好きの1人も見当たらないのは、些か不用心なんじゃないかと思えてきますよ」
「それだけ平和ってことだろ。殺伐としてりゃ行商なんざ成立しねぇしな」
「その場合なら軍需品を売ればいいのでは?」
「どこの誰とも知れねぇ行商人が戦争にかこつけて武器や防具を引っ提げて、噂を流しながら放浪してるのを。お前が王だったとして、捨て置けるか?」
「無理ですね。すみません。想像力不足でした。ですが・・・そういうことであれば、現状はこの僕達にとっては都合のいい状況―――ということで、いいんですよね?」
「順調ではあると思いますヨー?」
敢えて含みのある返答をするヤーレン。
「順調では・・・ですか?」
「まだわかりませんが、嫌な予感がしますネー」
「言葉にできねぇのか?」
「全ては難しいかト。一部で言うナラ、物価・・・ですかネー」
「物価、ですか?」
「エエ。あまりに安すぎるんですヨ」
「それは―――確かに変ですね。話を聞く限りなら、多少なりとも上昇傾向にあるはずですが・・・」
流石は王を見据えるだけあって聡いライザード。
「安いとなにがいけないのでしょう?」
逆に、一般人でしかないマルチナには意味が通じなかったようだ。
「物価は需要と供給によって決まりマス。簡単に言うと、買いたい人と売りたい人の比率ですネ。買いたい人が多くなると、商品の値段は上がります。オークションなどを想像するとわかりやすいかト。競合が多くなれば、自然と競り上がりますよネ?」
「ああ、はい! なるほどですね。では、値段が低い・・・安いということはその逆――」
「そうデス。売りたい人が多いということになりマス。ですが、帝国の今の情勢を省みて、それはあり得ませんヨ。皇国と国交はなく、共和国では内紛が。帝国でも暴動が起きているのですカラ、物流は減って当然。ですガー」
「・・・なぜか商品の売価が低い。考えられる要因は2つ。1つは各国の混乱を原因にした買い控えが起きている可能性。購買意欲が低いから、提示できる金額も低くなる。もしや万が一に備えている場合だな」
「そうであれば問題はありませんネ。経済全体が不景気であるがための結果ですカラ。経済が好転すれば売値も回復するはずデス。ただ、それを確認する術はありませんガ・・・」
「まぁな・・けど、問題はもう1つの場合だ」
「ハイ。同じような商品が既に流通している。あるいは今後、近い将来に流通する目途がある場合、ですネ」
俺達が商品としているのはミョヒリー共和国やガルバリオ皇国の製品。
これらは帝国では珍しく、希少であるため値段もそこそこ。それは消耗品や草木の種のような、本来安物の品であっても変わらない。
にもかかわらず、
「普段との違いはどの程度だ?」
「ほぼ、ありまセン。むしろ、少し安いくらいですネ」
ヤーレンが個人で行っていた行商時より、値段が下がる・・・そんなことがあるか?
「つっても・・・行商、だからな」
「エエ。需要の偏りは確かにありマス。地域でそれが被っていたとしても、珍しくはありまセン」
「なにより、流通自体が珍しいもんの値段を操作できるかって話でもある」
「よっぽど管理気質の中枢でもなけれバー、町や村での取引の値段なんか、知らないでしょうカラネー」
もう1つ、可能性としてあげるなら―ヤーレンが噓をついている場合だが。
わざわざこんなところで不安を煽るような嘘を吐くか? って話になる。
油断を誘いたいなら、普段より高く売れると言わせるべきだ。
こっちの読みが当たっているように思わせる。帝国の混迷が物流の断絶や乖離を起こし、迅速な修復が行われない現状は付け入る隙になると。
「どうしましたカ? なにか、思い当たることデモ?」
「いや――・・・気持ち悪いぐらい不気味だよ」
つい視線を飛ばしてしまい、ヤーレンに気遣われてしまったが、やはり。嘘を言っている風には見えなかった。