軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帝国へ。一策

「アタシは・・・―――」

なにかを言おうとして、声は出ず。ただ縋るように上げていた顔も、長くは持たずに項垂れる。

『アタシは・・・』か、そうだったな。

形にさえならなかったこのやり取りの中で、ずっと感じていた違和感に気付いた。

そうだ。コイツの1人称はアタシだった。

ほんの僅かなことだが、1人称を変えるってのは自分を繕う瞬間でもある。

俺にしてもそうだ。

冒険者として好きに生きる俺と、貴族として立場をわきまえる私。

嘘や偽りで塗り固めるわけじゃねぇ。けど、建前や周りの目を気にしてて、本心ってわけでもねぇ。

それらは自分を守るための役作りに近いものの、

「――帝国が平和ならそれでいいって思うのよ。でも、いきなり王様になれなんて言われたって、わかんないわよ」

どうにもできねぇこともある。

そんな責任を誰かに押し付けるような真似をする大人を、俺達は嫌ってきた。その中には、かつて憧れた自由を愛する騎士も居たはずで・・・・・・。

目をそらさずに現実を見ようと視線を送ると、そこには目をそらすように視線を落とす将軍が居た。

いっそ悪びれもせず胸でも張ってくれりゃぁ、色々と楽なんだけどな。

どっちつかずに揺れるのもまた、どうしようもねぇことなのかもしれねぇ。

納得ができなくても、それでも。進まなきゃならねぇときは、確かにある。

「一応確認するが、他の候補はどうなってる?」

「一部を除いて身を潜めている。今回の暗殺は1件や2件に止まらなかったのでな」

「その一部ってのは?」

「隣の共和国、ミョヒリーに高飛びだ。事態が収まってから再起をかける気かもしれんが・・・それもどこまで本気かはわからん。それどころか――」

「それどころか?」

「高飛びが成功したのかも怪しい」

「っつーのはアレか?」

「ミョヒリーにも、望福教の思想が広がっているカラ――ですネ」

「その通りだ。連中は既にミレ様の一派で、一足飛びに国外にも手を伸ばそうとしているのかも知れん」

「その結果がミョヒリーで起きてるっていう内紛騒ぎか? だとすりゃぁ、連中はミョヒリーを実験台に同じことを帝国でやらかそうとしてるってことになるが・・・・・・」

「どうでしょうカ? 我が国では氏族同士が対立することで事態が大きくなっている節がありますカラ。こちらでも同じことが起こせるかというト」

「そのおかげで国民の暴動程度で済んでいるというわけか? しかし、その程度だからこそ、ミレ様の派閥でも治めやすく、それが信者の獲得に繋がっているのだとすれば――それは実に巧妙なやり口だ」

「貴族同士でいざこざになったりはいねぇのか?」

「小規模の暴動なんぞに他領から口を出すこともあるまい? であれば、貴族同士でどうこうなど、なりようもない。ミレ様にしても。領主からすれば、面倒の種を摘んでくれた恩人にしかならん。よく対策されとるよ」

共和国民からすれば実験台にされただけでいい迷惑だが、それだけの意味はあったようだ。無理のない範囲で活用されている。

この中でただ1人、共和国民に該当するヤーレンだけが堪ったもんじゃないといった表情をする。

「こっちの人気取りはどうなんだ? 相手は姉なんだろ? 継承順位も向こうの方が高いんじゃねぇのか?」

「その通りだが、そこは心配いらん。こちらはそもそも暴動が起きていない。きちんと足場を固めて帝都で宣言すれば、暗殺を狙ってくるはず。それさえ阻止してしまえば、後は強い意志を持って王として君臨するだけで、国民はついてくる。それだけ今の帝国は混迷しているのだ」

「つまりは先に仕掛けて、出たとこ勝負ってわけか・・・俺への要求は?」

「本来なら、暗殺阻止のための戦力として抱え込むつもりだったが、行商人として来たのなら足場づくりを手伝ってもらいたい。帝国北側を先に回って来たという体で、暴動の真実―望福教が関わっていることを、共和国の実態も含めて噂として流して欲しい」

「そこへ軍が出張って真実だと認めることで、一致団結を呼びかけるんだな?」

「話が早いな。こちらはその真意を確かめるために後追いするという設定だ。そうする都合上、こちらとの接触は今後、控えてもらう」

「思惑が透けたら疑う奴も出てくるだろうからな」

「そうだ。例え紛れもない真実であっても、疑われればその価値は下がる。ならば、それは忌避しなければならない。故に、決められることは今のうちに決めておく。まずは噂を流す町だが―――」

「時間との勝負とは言え、大都市のみ直行だと経路が怪しいな。行商人として見た時、外せない町の条件とかねぇのか?」

「そうですネ。大都市を連結する町や村では、絶対に売り買いを行いますヨ。相場の確認や、売れ筋の見極め、信頼や実績を積み上げる目的もありますネ。それ以外だと、特産品のある町は多少遠くても外せませんネー。それこそが行商の醍醐味ですカラ」

「だったら、こことここ・・・後は―――――」

「俺達の存在は軍に通知を出すのか? 出さねぇなら、この町は避けたいな。駐屯地から近すぎる。帝国民から真実を語る行商人として認識されりゃぁ、軍からの接触はあって然るべきだろ。軍が避けるのも、俺達から近付くのと同じぐらいには不審に映ると思うが?」

「総司令や将軍が直々に追いかけているのにか?」

「だからこそだ。網ぐらい張るだろ?」

「うぅむ・・・確かにな。とはいえ、余計な情報は与えない方がいいだろう。分かった。そこは外して、こちらから回ってくれ」

「イエ。でしたラ、こちらの方がいいでしょう。地図上では遠く見えますガ、そちらの山道を使うより楽な道になりマス。山道はなにかと危険ですのデ、余程ちゃんとした目的がなければ、商人は近寄りませんヨ」

俺達は机に広げられた帝国の地図をあちこち指しながら、今後の展望を固めていった。