作品タイトル不明
帝国へ。一夜
潜入後、初めての夜。帝国南端にある町の宿屋にて。
休息を取っていた俺達の前に、
「アンタねぇ! 来てくれたのはありがたいけど‼ もうちょっと段取りとか、考えらんなかったの⁉」
まさかの南端戦線指揮総司令官が直々のお迎えに来てくださった。
「考えてたからこうしてるんだろ? お前の登場で余計にそう思ったぐらいだ。急いでよかったってな」
「どうしてよ⁉ 私からの迎えを待っていれば、こんなよくわからない変装もどき、必要なかったじゃない‼ 探すのにちょっと苦労したのよ‼ 演技のためかしらないけど、こんな子供まで連れてきちゃって‼ 遊びじゃないんだから‼」
「苦労したのはお前じゃねぇだろ? なぁ、将軍? それに・・・そいつが付いて来たのはそいつの意志だ。遊びじゃねぇことぐらいわかってるさ」
よもやこっちまで引き連れてくるなんざ思ってなかったんだが、付いて来ちまったもんは仕方がねぇ。視線と話題を振ることで会話に混ぜる。
「まあ、そうであるな。姫様は貴公の居場所を聞いて、ここへ来ただけだ。骨を折らされたのは私とその部下ぐらいのもの・・・・・・とはいえ、それも言うほどの労力が必要だったわけではないがな。あの橋を越えてくる人間など、そうは居らぬのだから」
フリードリヒ将軍。
その正体は声から察するに、初代自由騎士・フリーダム。
「で? 仮にお前の迎えを待ってたら、どうなってたんだ?」
「それは当然、こうして私が直々に迎えに行ってあげたわよ‼ こっちの都合で、私に協力してもらうわけだしね」
「その結果、どうなったと思う?」
「なによ? どういう意味?」
南端戦線指揮総司令官ことカーナが首をかしげるが、俺が聞いた相手はお前じゃない。
「さあ、どうだかな。その心配は痛み入るが、今の情勢をこちらで読むのは不可能に近いと、そう言わざるを得ないことは告げておく。しかし、不用意なことをさせるつもりもなかった。そうなっていた場合は私の部下が迎えに行っただろう」
「それでも十分に危険だった。そういう立場のはずだろ?」
「それは否定しない」
フリードリヒ将軍の方はその意味を正しく理解していた。
「ちょっと! 説明しなさい‼ どういおうことよ‼」
「あのなぁ・・・お前の肩書は?」
「ゴウガ帝国、公爵家の娘よ」
「違う。南端戦線指揮総司令官、だろ? そんなやつが、睨むべき敵を招き入れてたらどう思われる?」
「・・・・・・あっ‼」
そうだ。敵国との内通は国家反逆罪に違いない。
しかもこいつは姫様と呼ばれるような出身。確か先代? 帝王の直系で、公爵家へ出された娘とかだったはずだ。
そんなやつがそんなことをしでかせば、即座に処刑台に送られるだろう。
なによりこんな状況だ。
叛意ありとするには、十分すぎる証拠となる。
「・・・理由はわかったわ。配慮には感謝しとくわ・・・・・・ありがと」
「っつーわけだから、これからも俺達は別々に行動する。合流地点はどうする? そっちの活動拠点だと、行商人が訪れるには難しいか?」
「こちらの拠点は軍事施設であるため、民間人の来訪には少し無理がある。最終的な目的地は帝都だ。道中の大都市にて、中間報告をするなどして対応するしかあるまい」
ついでに、今日のここへの訪問も、珍しく表れた行商人の監視としておくことにする。という将軍は、自分の仕事をよく理解しているようだ。
「それで・・・そっちの子供は誰なの? あの時の子じゃないでしょ?」
「バロンを連れてくる分けねぇだろ。アイツはちゃんとした跡取りだぞ? コイツとは違うんだよ」
「コイツとは、いつにもまして失礼ですね」
「そりゃぁここは帝国だからな。陛下の権威もここまでは届いちゃくれねぇのさ」
「そうですね。精々、肝に銘じておきますよ。この僕でさえ、ここでは誰でもないのだということを・・・いえ、皇太子の嫡子だなどと、バレてはいけないんだということを、ですか」
やれやれと首を振るライザードの発言に、
「ちょっと? あり得ない言葉が聞こえた気がするんだけど?」
カーナは戦慄するものの・・・。
「別にあり得なくはねぇだろ。単身、敵国に乗り込んできたわけでもあるまいし。護衛を連れてるんだ。そういうこともあるだろう? なにより、立場はそう変わらねぇんじゃねぇか?」
「全然違うわよ‼ というか、そう聞くとあの時の私ヤバいわね・・・」
「ああ、そうだな。そのことに気付いてくれて嬉しい限りだ」
「うっさいわね! じゃあそっちの人もヤバいのかしら? それとも、他の人が?」
カーナはマルチナや蒸気の騎乗者の面々――果てはヤーレンまで指して言うが、
「そっちの女はおまけの使用人。トンチキな格好をしてるのが行商人。残りは護衛の冒険者だ。言ったろ? 護衛を連れてるって」
「そう。ならいいわ」
俺の返答を聞いて胸をなでおろす。
しかし、それも一瞬のこと。
「それで貴方のその・・・トンチキ? な格好は、やっぱり宗教かしら?」
「そうですネー。これは部族の教えです」
「部族の・・・―――悪いんだけど、私達は今。宗教だとか、そういう言葉には敏感だわ。だから、できれば信用できるかを聞いておきたいんだけど」
そういうカーナに対して、
「彼がミーを選んだと言うのでは足りませんカ?」
ヤーレンが俺を指差して返すが、
「そうね・・・少し。だって必要なら敵でも使いそうでしょ? その人」
「確かにその通りですネー」
失礼な物言いで分かり合い、笑い合う。
まぁ、その人物評価を間違ってるとは言わねぇが。
「であれバ、一言だけ。我が部族の教えは、人に押し付けるようなものではありません」
そうやって言い切るヤーレンの姿は、俺から信用を勝ち取った時のそれに酷似していた。