作品タイトル不明
帝国へ。一念
答えのない問いへの返事は沈黙となる。
幾何かの静寂を抜けて、再び口を開くのは俺だ。
「気になることがあるんだが・・・、ちょっといいか?」
「なんでしょうカ?」
「この町は帝国の中で栄えている方に入るか?」
「特別そのようなことはありませんネ。それがどうかしましたカ?」
「いや、普通過ぎると思ってな・・・」
「ああ! 暴動の件ですネ? 安心してくださイ。こちら側は比較的安定してますカラ。不安はありませんヨ?」
俺が気になったのはそういうことじゃねぇんだが、そう言われるとそのことも気になる。
「どういう理屈だ?」
「手短に説明するトー、望福教の教えは南下しているということですネー」
南下。つまり北を発生源に徐々に下ってきているということか。だから、帝国最南端にあたるこの場所はまだ安全だと。
「その影響はどこまで出てる?」
「帝都から北に2か月と言ったところでしょうカ」
「最北端までは?」
「その倍はかかりますヨー。帝都は広いですカラ」
「こっから帝都だと、どうなる?」
「1か月半くらいになりますネー。もちろん、このままなら・・・ですガ」
このままってのは、この人数でこの馬車のまま、補給や休息の感覚も維持した場合ってことだろう。
馬車を引かせる馬の数を増やしたり、関所での足止めを失くせば、もっと早く着くのかもしれねぇな。
「望福教が南下する速度は分かるか?」
「流石に予測になりますガ・・・ミー達が帝都に辿り着くころにハ、向こうも同じく帝都へ辿り着けるかト」
「向こうの方が速いか・・・」
「教えはあくまで概念ですカラ。なにより、向こうは国内の組織なのデ。ミー達と違って、関所の通過検査にも時間がかかりませんしネ」
下手すれば帝都で大激突。
皇城前でやったような問答が始まる可能性が―――・・・いや、ねぇな。
アレができたのは加護信仰の熱い教会があって、その上で俺と教皇の爺さんグレアムとの繋がり、さらに言えばグレアムとその息子グレンゼーの関係があってのこと。
この帝国でぶつかるとすれば、それこそ信徒とその他で潰し合う、小規模な戦争になるだろう。
しかも、引き際の分からねぇ泥沼の戦いだ。
精神操作の魔法を使ってるなら、どっちにも引く理由がねぇからな。
落としどころがなけりゃ、完全な決着まで終わらねぇ。完全な決着ってのは、相手を根絶やしにすることになるだろう。
敵国での出来事。
本来なら喜んでしかるべきなのかもしれねぇが、そんな醜態を見たいとは思わねぇ。
かといって、それを終息させる手立てが・・・俺にはない。
それを持っているのは――俺を呼び出した帝国の人間。つまりカーナと名乗ったあの女ぐらいだろう。
そこで最初に気になったことだ。
南端戦線指揮総司令官。大層な肩書だと思うが、それこそがカーナの役職なのだという。
だとすれば・・・当然それなりの施設なり、拠点があるはず。
だが、この最南端の町にそんなもんは存在してねぇように思える。
それどころか、皇国の北の守り、我らが要塞のような壁がこの国にはない。
途中で通った関所さえ、間に合わせのような杜撰な代物だった。
この地は帝国にとって守るべき場所じゃねぇってことなのか?
そう思ったからこそ、ヤーレンにこの町の栄具合を聞いたのだ。
もしそうであるなら、この町は帝国の中でも栄えているとは言えない状況にあるはず。
なぜなら、下手をすれば皇国に奪われる位置にあるからだ。
守りの外、緩衝地帯と考えているなら、むしろ痩せた土地にしておく方が都合がいい。物資を送らなければ維持さえできないような、そんな土地が好ましい。
だってのに、この町はあまりにも普通過ぎた。
帝国を行商で回ったことのあるヤーレンでさえも、普通だと言っていた。
なぜ?
カーナに会えば、なにかわかるだろうか?
少なくとも、活動の拠点がこの町より南側にない理由はわかるだろうが、それ以上のことをアイツが知ってるとも思えないんだよな。
そうなると、アイツの周りにいた誰かに聞くことになるんだが・・・思い出されるのはカーナを迎えに来た部隊。
それを率いていたのは、やけに聞き覚えのある声をした、自称:フリードリヒ将軍――だったか。
なにがあったかは知らねぇが、変わらねぇ自由とやらの答えを。聞かせてもらうとしようじゃねぇか。