作品タイトル不明
帝国へ。一言
「なんというか・・・あまり違わないものですね」
関所を抜けて帝国1つ目の町。走る馬車の中から見える風景にライザードが零す。
街並みも、人も、皇国と帝国に大した差はない。
それはそうだ。
谷という大きな溝に隔たれているとはいえ、同じ大陸の隣に住む国同士。
文化や人種が大きく違うことはない。
「どうしてでしょう? 今まではずっと・・・ただ漠然と嫌っていました。もっと、この僕とは違う。どうしようもなく違うものなんだと」
「それが教育の結果ってことだろ? 戦争が終結したわけじゃねぇんだから、敵だと教えることに嘘はねぇ。脅威だとっつーのも間違っちゃいねぇ。けど、見たことねぇもんをただ聞かされ続けると、どうしても妄想で膨らむ。色眼鏡で曇る。それが興味であれ恐怖であれ、現実とは異なる形に行きつくのは致仕方のねぇことだ」
「そうですネー。それに、皇国の北部は一時的に帝国へ取り込まれていましたカラ、きっと、そのせいで余計にそう感じるのですヨ。混ざってしまったに違いありまセン。我が国がそうであるようニー」
御者台からヤーレンも会話に加わる。
「普通はそういったものは拒絶されるものではありませんか? かぶれるような感覚というか、排除したくなると思うのですが・・・」
「なにをもって普通というか、それによりますネー。文化や思想という意味ならばその通り・・・ですガ、技術や戦術という意味ならば、その通りではありませんヨ」
「なぜです?」
「怖いからだ。敵の技術や戦術がな」
「なるほど、相手の技術や戦術がわからなければ対策のしようがない。そういうことですか」
「ソウ。そして、そういった技術や戦術の中にも、文化や思想というものは含まれるわけですネ」
「そんなことがあるんですか?」
「あるさ。文化や風習ってのは風土の影響を大きく受ける。地形、風向き、気候、地質、場合によっては災害や道の有無なんかもな。精霊信仰なんかは正に、そういったもんへ焦点を絞った宗教だったはずだが・・・」
「エエ。おっしゃる通りですヨ。風がよく吹くところには風の精霊が、良い土のある場所には土の精霊が、水場には水の精霊、火山には火の精霊が居ると信じてイマス。だから我が部族は、その精霊達の力を借りるための技術だったり、邪魔をしない戦術を作ってイマス。それは普通のことですネ」
「わからないことは怖い。知らないことはわからない。だったら後は―――、わかるよな?」
「知ってしまえばいい・・・そういうことですね」
そう言った考え方がある。と知るだけで認識は変わるし、なんなら、それをより有効に利用するためには――と考えるのが人間だ。
例えば、水場の水を枯らすとか、土を荒らすとかな。
そうすりゃ精霊信仰をしている者へ精神的打撃を与える事ができるだろう。攻めると同時にやるか、事前にやるか、攻めで仕込んでその後・・・なんてこともできる。
平和であれば純粋な探求心に使われる事の方が多いだろうが、戦争ならそうするってのが普通だ。
「そうした結果が敵国の文化との混濁だというのなら、人の業とは浅ましいものですね」
「業ってのは元来そういうもんだろ」
「そうかもしれませんが・・・・・・」
だとしたら、なにを憎めばいいんでしょう? ライザードはまた、外を見ながらその胸中を零した。