作品タイトル不明
side――ライザード&バロン
ゼネスの帝国行きが決まった後、謁見の間にて。
「あの者の帝国行きへ、この僕も同行させてはいただけませんか⁉ 陛下‼ いえ、お爺様‼」
ゼネスらの退出を見送って直ぐ、ライザードがライゼン皇王に願い出る。
この時バロンは驚愕した。その内心も『いきなり、なにいってるの⁉』 という感想一色であったが、驚きのあまり表情は死んでいた。
「・・・なぜだ?」
嘆願されたライゼンは即座に否定することはせず、かといって許可を出すでもなく、僅かな沈黙の後に短く聞いた。
そこには分かり辛いながらも家族としての愛情を感じられる。
敵国への潜入に、年端もいかない子供を同行させるなど言語道断。
危険を助長させるだけの行為を見逃す理由はない。
それでも考えを聞こうというのは、国の頂点としての立場からではなく、祖父としての対応と言えるだろう。
それでも即座に許可を出さない辺りに、皇王としての矜持を感じる。
「あの者・・・ゼネス・グラーニンは教会支持者から見れば、その立場は既に神となっています。陛下よりも高い位置にいる。しかし、本人からはそのような振舞いは見えず、なにより陛下によく従っています。その姿勢が敵国でも変わらないのかを確認したいのです」
ライザードは咄嗟の嘘をついた。
その態度が変わらないことをライザードはゼネスから聞いていた。だから、本当のところはそんな理由じゃない。
そして、
「そんなことであれば確認など不要だ。そうだな? ダンデよ」
「はい。陛下。アレにそのような野心はございません。昔から責任というものを嫌う性質がありました。権力や立場よりも、身軽さや自由を好むでしょう。手を伸ばすとすれば、それこそ、己の手が届く範囲に収まるかと。したがって、神に名乗りを上げるようなことはありません」
そんなことであれば、ライゼンやダンデにも丸わかりだった。
それくらいにはゼネスという男はわかりやすかった。
その反応を見て、どうすれば・・・と考えるライザードの方にバロンが手を置く。その意味は、本当のことを話したら? と言うものだ。
先程の嘘は大人達どころか、バロンにさえ簡単に見破られる程度のもの。
それで皇王や将軍を説き伏せるのは無理だと、上辺だけの言葉で動かせる相手じゃないと。バロンはただ、手を乗せるだけで示す。
「気になるのです。あの者が帝国でなにを成すか。なにより、なぜ名指しで選ばれるようなことになったのか。それだけの力をどうやって得たのか」
ライザードはこの場において聞き得た話から、帝国側からの要請が意図的なものであったことを理解した。
グラーニン辺境伯家への協力要請は、その結果がどうなるか・・・・・・分かっていて行ったのだと言うことを。
逆に言えば、それだけゼネス・C・グラーニンという人物の情報が出回っているということだ。敵国にさえ、正確に。さらには、その力を求めて――という点も疑問だった。
将や戦力としてなら納得もできる。戦うことを想定するだろうからだ。
けれど、今回のは違う。
的確に、助力を求めて狙われた。この国からたった1人。他の誰でもなく。
なぜ・・・?
確かにゼネスは優れた実力者ではあると、ライザードも認めている。
しかしそれは個人の力に過ぎないはずだ。
権力や財力、戦闘力やそれ以外でさえ、総合的に見れば頭抜けたモノではないはず。あるとすれば神としての立場や特性だが、本人はそれを使いたがらない。だったら・・・―――?
「だから敵国に渡ると? 身分が割れればどうなるか? 分かっておらぬわけではあるまい?」
「もちろん承知しています。ですが・・・」
「ですが、どうしたのだ?」
「今を逃すと、2度と知れないような・・・そんな気がするのです」
「ゼネスはそなたの教師でもあるのだぞ? そのような機会は――」
――いくらでもあるはずだ。そう言おうとして、ライゼンは辞めた。
ライザードの真剣な眼差しを、真っ直ぐに受け止めてしまったから。
気がする・・・などという曖昧な言葉で皇族を、しかも正当な跡継ぎを戦中の敵国へ送り出すわけにはいかない。
だが、そう言った予感が当たらないわけでもないということを。ライゼンは先の戦争を通して良く知っていた。
故に、助けを求めるように視線を流す。
「バロン。お前はどうするつもりだ?」
その視線を受け取ったダンデは、自分の孫であるバロンへ問う。
ここで自分も同行するとバロンが言えば、それを理由にダンデはライザードの嘆願を切り捨てるつもりだった。
孫可愛さからではなく、ゼネスの帝国への潜入が失敗する危険を考えてだ。
子供2人のお守りをしながらなど、不可能だと思ったから。
であるにもかかわらず、
「僕はお父様と一緒に、叔父様と殿下の連絡を待ちます。学園再開の目途もまだ立ちそうにないし、構いませんよね? お爺様?」
それを察したかのようにバロンは待機を選んだ。
そうしたのは本当のところ、バロン自身が足手まといになりたくないと思ったからなのだが、結果として。
「分かったライザードよ。そなたの帝国行きを認めよう。しかしあくまでも自己責任だ。なにがあっても、こちらからは助けてやれぬが――いいな?」
「はい! 承知いたしました‼」
ライザードの同行が決まることとなった。