作品タイトル不明
谷を越える力
「それは・・・すまない。早合点をしてしまったようだ。ただ、申し訳ないが確認させて欲しい。冒険者ならばカードを持っているはずだ。見せてくれないかな?」
「ふっふっふ! モチロンです! さあ! どうです⁉」
スイが自信満々に出したそれを、兄上はまじまじと見つめている。
「どうやら本当みたいだ。驚いたな」
「分かればいいです‼ ごめんなさいもしたですから、許してもあげます」
カードを返してもらいながら、どやっ! っと胸を張ったスイの頭を抑え込むように、上から押さえつけてお辞儀をさせるタン。流石に保護者は兄上の立場を理解していた。
「ウチの子がすみません。領主様に尊大な態度を・・・どうかお許しを」
「ス、スイは負けませんよぉおおお‼‼」
「そういう勝負じゃない」
楽しそうに抗おうとするスイに呆れつつも、片手でも力負けしないタン。年齢以上に戦士の資質に差がありすぎだ。
「ああ、構わないとも。先に謝ったとおり、間違っていたのは私だからね」
そんなやり取りを笑って許せる兄上も、大概に貴族らしくない。
そう思ったのはトンチキな行商人もか。
「いいんですカ? こういってはなんですが、かなり失礼だったかと思いましたガー・・・・・・・」
「これから弟が世話になるのだ。波風を立てるわけにもいくまい? それに、私の弟は頑固でな。一度決めたことは譲らない。だから私が折れるんだ」
「なるほど。そんな人の兄になるには、それほどの度量が必要になるのですネ」
「兄上、人聞きの悪いことを言わないでください? 俺はそれほど我がままだったつもりはありませんよ」
「そうだな。けれど、私の我がままを聞いてくれた試しもないな? 私がお前の世話をしたいと願っても、碌に顔さえ合わせてはくれなかった」
「・・・・・・手紙は出したでしょう」
「そういうところも含め、頑なが過ぎる。お前がそうだから、私はそれに合わせて柔らかくなってしまったんだろう。それを悪いと思うなら、責任を取ってくれてもいいんだぞ?」
「責任ってのは年長者、あるいは立場ある者が取るべきだと、俺に教えてくれたのは兄上でしたよね?」
「聞いただろう? これだから私の度量は広く、大きくなったのだ」
「エエ、確かに。なんとも大胆な白状の仕方かト」
笑って頷くトンチキ野郎のせいで、どうにも分が悪い。
「それより、個人等級の試験なんていつ受けてたんだ? 皇都じゃ厳しいだろ」
すかさず話題を変えて場を凌ぐ。
「サンパダさんに色々と手配してもらって、どうにかってところだけどな。試験は南の辺境伯領で受けたよ。蒸気の騎乗者の結成はそっちだったから」
「そうなのか? まぁあっちなら対象に出来そうなモンスターも生息してるから不思議じゃねぇが・・・意外だったな? ずっと皇都に居たもんだと」
「活動自体はずっと皇都だったよ。出身が南側ってだけだ」
「なるほど、地元で仲間だけは募ったってわけか」
「・・・そんなところかな? 後から増えた面子もいるけどね」
サンからの返答に微妙な間があったのは気になるが、パーティーメンバーの増減なんざ珍しくもねぇ。こいつらの場合は更に事情もあるだろうしな。
試験を南で受けたのも、全く知らない土地で、知らない相手とやるより、少なくとも気候ぐらいは知ってて、噂ぐらいには聞いたこと相手の方がマシ。程度の理由だろう。間違ってもねぇ。
「ま、昇級したばっかってことには変わりがねぇもんで、そのことで実力に不安――って言われるんなら、こっちとしちゃ何にも言えなくなっちまうんですが・・・」
今一度、確認とばかりにホウが兄上に話を振るが、
「試験の結果にマグレがないとは言わないが、全員がマグレなんてことはないだろう? もしあるとすれば不正だが・・・そこまで疑っては制度そのものの否定だろう」
特別苦情が上がることもなかった。
「しかしゼネスよ。本当に明日出発で構わないのか?」
「色々と急いだほうがいい事情がありますからね」
「一応。その事情とやらを聞いてもいいか?」
「1つは帝国側からの接触であること。向こうの内情もあるでしょうから、急いだほうがいいでしょう。さらに1つが、東の国の動向。内紛騒ぎがいよいよ国外にまで及びそうとのことなので・・・」
言いつつ視線をトンチキ行商人へ、それを受けてトンチキ行商人が頷く。
兄上にもこの行商人が東の国に詳しいことは話してある。そいつが頷くってことは、そういうことだ。
「わかった。間に合うかどうかはわからないが、帝国側の使者へ連絡しておこう。迎えを寄こすと言っていたからな」
「そういえば、帝国からの使者とは聞いていましたが、いったい誰から?」
「聞いていなかったのか? 以前この要塞で捕らえていた彼女。南端戦線指揮総司令官のカーナからだよ」