作品タイトル不明
北の門前の不安
「待っていたぞ! ゼネス! よく帰った‼」
「長居はできませんがね。それよりも兄上、領主への就任。おめでとうございます」
グラーニン辺境伯領。その象徴、北の要塞の中で。兄上からの歓待を受ける。
「形式だけだ。父上が皇都へ行かれたのでな。仕方なく私が領主になった。可能ならば手を貸してほしいぐらいだぞ?」
「それは不可能でしょうね」
「そうなんだろうな。嘆かわしい限りだよ、まったく」
軽く首を振って笑う兄上は、直ぐに表情を険しいものに切り替える。
「それで、その者達と帝国へ向かうのか?」
逸れる視線の先にいるのは、マルチナとトンチキな格好をした商人・・・それと―――。
「マルチナです。ゼネス様のことはお任せください‼」
「ミーは案内役の商人ですヨ。道案内だけは責任持ちますネー」
「この僕のことは気にしなくとも構いません。自己責任は理解しています」
なぜか皇都からの出発前についてきたライザード。
これには兄上も渋い顔をせざる負えない。
「殿下。ここまでならばまだ皇国の内。見聞を広めるための旅行や視察と言った言い訳もできますが・・・谷を越えれば帝国です。万が一、向こうで捕まるようなことになれば、どうなるか―――」
「そんなことになるわけがないでしょう? そうですよね? 先生?」
そう言いながらライザードはこっち見てニッコリ笑顔だ。
お前のそんな表情、初めて見たぞ。
「残念ですが兄上、皇王陛下からのお墨付きもありまして・・・」
「なぜそんなことに・・・陛下も孫可愛さに盲目なされたか⁉」
「陛下だけではなく、バロンの願いもあってか、御父上からの推薦もありましたよ」
「父上までが・・・・・・⁉」
どうして⁉ と頭を抱える兄上。
この地から送り出す以上、なにかあった時には、責任を追及されるだろうからな。当然と言えば当然の反応。
俺も同じく皇都で頭を抱えたが、結局どうにもできなさそうだってことで諦めた後だ。
「ならせめて護衛を増やさないか? 家から何人か精鋭を連れて行くと言い。なんだったらゴルドラッセでも構わないぞ⁉」
「兄上。こういってはなんですが、帝国へは商人に擬態して潜入します。そこに軍人が居ては不自然でしょう?」
「ゴルドラッセならば、良家の執事にも扮せるだろう? 殿下を連れて行くんだ。そういう設定もあるんじゃないのか?」
「それはそうですが、俺は旅先でまでアイツの小言を聞きたくありませんよ。それにそういった役回りは俺のものです。2人も3人も居たらバレますよ」
兄上の言う通り、ライザードは商会のボンボンという設定で帝国へ向かう。俺はその指南役。なにを指南するかは・・・まぁ適当だ。
ちなみにマルチナは使用人役ということになる。
「しかし、そうなると護衛に不安が残る‼ ここに居ないのは顔見世できなない面子だとか、そういうことじゃないのか⁉ そうでないなら――」
「心配はごもっともですが・・・時間もない中では、最良の選択だと言える護衛ですよ。ここに居ないのは馬車やその他の最終確認をしているからで――と、言っている間に来ましたね」
兵士に案内されて来たのは、
「ゼネスさん。こっちは大丈夫そうでした。このまま帝国入りしても問題はないと思います」
「紹介します。”蒸気の騎乗者”皇都では唯一のA級パーティーの面々です」
サン、タン、スイ、ホウ、フッチの5人。
なんでもサンパダが無理を承知で願い出てくれたらしい。
冒険者は帝国にもいるが、やはり交流は少なく危険度も高い。
それでも、蒸気の騎乗者はこの話を受けてくれた。
理由は重用してくれているサンパダへの恩と、俺への義理・・・らしいが、生憎。それについては覚えがねぇ。ガルドナットでのことを言ってんなら、むしろ俺の方が世話になったと思っているぐらいだ。
なんにせよ、協力してくれるってのは有難い。
兄上に紹介したように、皇都では唯一のA級パーティーだ。その実力は間違いなく皇都随一。護衛としちゃこれ以上ない。
「えっと・・・初めまして?」
「・・・・・・ゼネス。皇都では―というのは。皇都以外では珍しくもない、ということじゃないのか?」
「そりゃぁサルベージまでいけばA級パーティーぐらいなら珍しくもありませんが、その時間はなかったと思っていますが・・・? それとも、帝国側からは幾らでも待つと?」
「いや、そんなことは言ってきていないが・・・それでもだな」
そもそも俺は呼び出された側だ。時間があるのなら、無理に蒸気の騎乗者の面々に頼る必要は無いと言えばない。だがそうじゃねぇなら、これほどの適任は他に居やしねぇ。
「さっきからあなた! 失礼です‼」
ビシッ‼ っと兄上を指差して抗議したのは最年少? のスイだ。
「そうか。すまない。けれど、君のような小さな子を危険に巻き込むのは良くないことだ。偽装には向いているのかもしれないが、全体としての評価じゃなく、1人1人として見なければ、なにかあってからじゃ――」
「だから! それが! 失礼だと‼ スイは言っているです‼」
地面をダンダンと踏む絞めながら怒るスイは、タンになだめられながら、
「スイ達は個人でもA級になったです‼ 心外過ぎです‼」
自分達の実力を主張した。