作品タイトル不明
後悔の楔
トンチキ行商人が手に取った羽飾りへ向ける眼差しは、まんま家族や仲間を心配しているそれであり、望福教への疑心にも疑いようがねぇってことで協力を頼んだ。
特に、『そうなってしまった場合、我が部族は皇国への移動数が多いのデ、先兵として使われますネ。責任を取れト。そうでなかった場合デモ、望福教、ひいては帝国への加担と取られ、立場が悪くなるのは免れませんヨ。そんなことになれば―――』と言った時の恐れは本物だったと思う。
人間ってのは残忍な生き物だ。
立場の弱くなった相手には何をしてもいいと思っている節があり、その結果がどうなるかは俺の故郷、グラーニン辺境伯領で行われる祭りからも想像できるだろう。
全てを奪い去られ、散々搾取された挙句に殺されるのがオチだ。
そう思えばこそ、断る理由が見いだせなかった。
しかし、そうと決まれば準備がある。
早々に別れ、用意を整えたなら、直ぐに出発しようという話に決まった。
なんで、まぁ――。
「コイツを渡しておく」
俺は教会へ赴き、変わらず教皇の地位に就くグレアムの爺さんに必要な物を手渡す。
「なんだ? これは・・・」
「俺のギフトをねじ込んだ魔法道具だ。身に着けていれば加護のレベルが上がる。つっても、流石に効果は薄いがな」
「お主はなんというものを安易に作っとるのだ! 気軽に教会の根幹を揺るがすでないわ!」
「そう言うなよ。俺が居ない間、身代わりぐらいにはなるだろ?」
「こんなものなくとも、なんとでもなるわ。じゃが、お主からの贈り物なら、折角だし受け取っておくことにするかのぅ」
「黙って貰っとけよ・・・ったく」
わざとらしく髭を撫でながら、ホッホッホと笑う姿はどこか嬉しそうで、憎めない老人の役としちゃぁ完璧だ。
「その後、そっちはどうなんだ?」
「今のところ大きな問題はない。むしろ、ユノはあの時のことで求心力を得たくらいじゃ。同情がきっかけというのはちとアレじゃが、儂が取り込みづらい若いのからも応援されとるのは喜ばしいことと言っていい」
「若いのからの支持が欲しいなら肚割って話せよ。そうすりゃ多少はマシになんだろ」
「その必要はないわい。長いこと信仰を大事にしてきた人間の方が、意志が固いからのぅ。じっくりと築いた地盤を捨てるくらいなら、少々の勢いくらいは逃してやろうというもんじゃ」
「ま、そんなもんか。足りねぇ分は誰かに補って貰えばいいさ。それが孫娘だってんなら、お互い悪い気もしねぇだろ。ユノが落ち込んでなけりゃな」
「無傷・・・というわけにはいかなんだが、思っておったよりは元気じゃよ。無理をしとるのかもしれんが、儂からはなんとも言い難い。お主さえよければ、ユノと会ってやってくれんか?」
「直ぐに会えるのか?」
「直ぐにとはいかん。いい女は会うにも時間がいるもんだ」
「だったら今回は見送らせてもらう。帝国行きが迫ってるんでな。もろもろの準備を終えたら、陛下への報告もある」
「そうか。ユノも残念がるじゃろうのぅ」
「悪いなって言っといてくれ」
何気なく別れたこの時を、俺は後悔することになる。
誰かにそう言われたように。
この時に気付いていれば・・・。
それだけの情報があったのに俺は―――。
上手く事が運んでいることに、陛下から頼られることに、御父上の鼻を明かしたような気分に。
―――酔いしれていたんだ。