作品タイトル不明
トントントンチキ
「オー! ようやくお出ましですカー?」
「どうでもいいことで立て込んでてな」
「私としては是非、そのお話も聞いてみたいものですが、彼は行商人ですから。機を逃しては協力をいただけません。早速ですが本題に入りましょう」
マンサ商会の商館にある一室にて、トンチキ行商人との交渉が始まる。
「ミーは暇ではありませんノデー? 手短にいきましょう。ミーになにを望みますカー?」
――――――・・・・・・。
ジッと、値踏みをするような窺った目。
全てを話すには長くなる。手短に、というなら要点だけを伝えよう。
それで理解できるようなら、そのまま協力を願う。試させてもらおうってわけだ。
相手が乗ってくるか、協力を受け入れるかは別の話だが。
「サンパダからなにをどこまで聞いたのかは知らねぇが、アンタに求めるのは2つ。帝国への遠征に同行することと、皇都東側所領の現状、または今に至るまでの過程、及び変動の内情だ」
「では、それによるミーの利益とは、なにになりますカー?」
「帝国への遠征は現皇王陛下。ライゼン陛下からの勅命だ。報酬については皇王陛下へ直接交渉、嘆願できる。それこそ望むがままに・・・な。まぁ、それが実現するかは陛下の御心次第だが」
「なるほどですネー? では、なぜ――貴方は皇都東側所領の情報を望みますカー?」
「・・・・・・・・・」
黙る俺にサンパダと、結局ついてきたマルチナが心配そうに視線を送ってくる。
「気になることがある。放置していると碌でもないことになりそうなほど、気になることが・・・な」
「それは―――望福教と関係がありますネ?」
ニヤリと笑うトンチキ行商人。
それぐらいはわかって当然だと思うが、この目はそれだけじゃなさそうだな。次はこちらから質問するぞという意思が見て取れる。それと、隠しきれない好奇心が。
「そうだ」
「それデーこの国の東側が気になってしまう。・・・ですガー? それだけならば、ミーが協力する必要はありませんネー? 国王様が報酬を出すなら、協力する人はミー以外にも居るでしょうカラー」
「そうだな」
「にもかかわらず、ミーが選ばれたのには理由がありますネ。例えば・・・そう、ミーが東の隣国ミョヒリー共和国の出身であることとカー? 他にも、望福教を信仰していないことですかネー?」
「それだけじゃねぇな」
「オーッ⁉⁉ では、もしかしテー? ミーが帝国にも足を踏み入れたことがあるから、ですカー?」
「・・・・・・・・・・・・」
そんな気はしていた。
帝国との戦争は何十年と続いている。そんなこの国にも、帝国産の商品は存在している。
ということは、それを仕入れる人間や、売買する市場が存在する。
だが、直接やり取りしては危険を孕み過ぎる。
その間に入る人材となれば、両国以外の人間。さらに、根無し草に近いほど都合が良く、その点で行商人という職業は見事なまでに噛み合っている。
この手の考えは俺のような元冒険者や貴族連中なんかより、本職である商人の方がよほどうまく考える。
そして、このマンサ商会でも帝国産の商品を扱っており、直接的な繋がりはないと言いながらも、こうして仲介できる相手となれば、その可能性は高いだろうと踏んでいた。
だから驚きは少ない。
「その顔は、まだ足りないということですかネー? しかし、確信がないと言ったような。ミーのなにを疑っているのかはわかりませんガー、もし貴方にその気があるなら、部族の教えに従い誓いを立てても構いませんヨー?」
「その気ってのは?」
「モチロン! 望福教の打倒ですよ」
「・・・!」
「オーッ‼ 驚いた顔になりましたネー。なぜミーがそんなことを言い出すのか、わからないですカー? ということは、それが疑いの原因ですネー? 言い当てるとするなラー? 部族の教えは望福教によって歪められているんじゃないか・・・といった所でしょうカー」
「否定できるのか?」
「できますヨー。本当デース。我ら部族の教えに従い、精霊に誓いを」
この言葉は間違いなく、その日一番の衝撃だった。