作品タイトル不明
信じるものは――
精霊信仰。
現在に広く普及した加護信仰より前に知れ渡っていた宗教。
その起源はあまりに古く、500年以上前から存在していたと言われる。
魔法の属性を司る精霊を信仰する教義を持ち、大地や自然、世界そのものに感謝する宗教だと聞いたことがある。
今もなお、亜人連合国などでは残っているらしいと聞いちゃいたが、まさか隣国にもあったとは。
「ミョヒリーは多くの部族がまとまってできた国。お互いの主張を受け入れずとも、否定せずに共存してきた国だが・・・それでも、精霊信仰なんてもんが残ってるとは・・・驚いたな」
「ははは! そうでしょうネー? 近年のミョヒリーは周辺諸国というカー、帝国に押され、その受け入れないという在り方さえ変えてしまいましたカラ、そう思っても不思議じゃありませんけどネー」
カラッと手を叩くように笑ったかと思えば、
「ですガ――、部族の中にまで招き入れない理由は、当然その奥底に秘密があるからですヨ? 我が部族では、それが精霊信仰だった。それだけです」
急に冷めたような目で語るトンチキ行商人。
「今の国政すらまやかしだと?」
「いえーそうは言いませんヨー。あれは頂点に立った部族が押し潰されてしまったのが原因ですカラ。各部族も迷惑してますネー」
「帝国を受け入れて何かを企んでいるわけではねぇと?」
「少なくとも、ミーの部族ではそうです」
「あくまで中枢のことは知らねぇと」
「我らは小さな部族ですからネー」
ミョヒリー共和国がゴウガ帝国からの干渉を受け入れ始めたのは数十年前。
帝国が皇国への侵攻に失敗した直ぐ後から。
大陸北端から約200年かけて南へ南へと侵略を繰り返してきた帝国が、侵攻を止められたのはガルバリオ皇国が初めて。
その次がミョヒリー共和国。
ミョヒリーは国土が広く、国力も低くはない。部族間の確執があるために強力ではないが、東大陸の半分を収める帝国であっても、飲み込めないほどには強い。
しかし、それでも政治的な介入が続き、一部文化の流入を許した。
その一端が望福教なんだろう。
「だが、それがなんで望福教の打倒に繋がる? 精霊信仰から見れば、加護信仰も同様に敵になるんじゃねぇのか?」
「それは違いますヨ? 宗教とは心のよりどころであり、信仰とは祈りです。加護教は加護の神様に祈りますネ? ですガー、望福教は教祖様に祈ります。ですヨネ?」
不意に視線をマルチナに飛ばして確認するトンチキ行商人。
マルチナは思わずといった感じで俺の方を一瞬確認してから頷く。
「それがダメな所ですネー。心のよりどころを人に求めては行けませんヨー。形のないものであるべきデース。そういう意味で、そちらのお嬢さんは危うくて見ていられませんネ」
「なぜでしょうか? 形あるものの方が明確に認識できますし、信じやすいはずです」
「―――だからこそ、裏切られたと思ってしまう」
マルチナの問いに、間髪おかずにトンチキ行商人は答える。
「信仰とは祈りであり、祈りとは誓いです。だれに誓うカ? それは自分に誓うのですネー。それを
誰かに委ねるなら、それは誓いではなく賭けですヨ。故に、失敗した時、上手くいかなかった時、思い通りにならなかった時、その人のせいにして恨んでしまう。それは利用されやすい感情デース」
「そんな――ッ⁉ 私はそんなことしません‼ なにより、恨むだなんて」
「今はそうでしょうネー。裏切られていませんカラ。ただ、実際にそう言った現象が起きているのですヨー。ですのデー? 貴方から声を掛けられた時、ミーはとても警戒していました。聞いていた話と違ったものでネー」
今度はチラリとサンパダに視線を向ける。
「差し出がましいようですが、先に使者を送っておいたのです。しかし、どうにも話が拗れてしまったようで・・・ゼネス様には大変申し訳なく」
「それはいいさ。この場が開かれてるってことは、納得はしたんだろ?」
「エエ。再度、説明を求めましたが、理解できる話でしたからネー」
それより、重要なことがあった。
「恨みの感情を利用してるってのは、どういうことだ?」
「最近、帝国の中で暴動が頻発しているのですヨ。先に言った通り、ミーは帝国にも出入りしていますカラ。そこで見聞きした程度ですけどネー」
「暴動? 規模は?」
「マチマチですヨー。小さな町では10人程度。大きな町では100人以上が参加していることもあったト。ただ、皆様一様におっしゃられることがありましテ―――」
曰く『いったいなにを信じればいいんだ』と。