作品タイトル不明
性と癖と変と質
空が黒く染まる頃、マルチナと2人。酒場で周囲を観察する。
「居ませんね」
「そうだな」
サンパダから教えらえた特徴を基に、件の行商人を探しているんだが。
「既に部屋へお戻りになったのでしょうか?」
「一応店主に聞いたが、部屋に籠ってる客はいねぇそうだから、その場合もあそこの階段を使ってる所が見えるはずなんだがな」
指さすのは壁際に設置された2階への階段。
ここは1階が酒場、2階が宿屋になってる典型的な形態の店。
酒場から宿屋へ向かう方法は指さした階段のみ。
部屋の窓から縄でも伸ばしてない限りは目につくはずだ。
「買い付けにでも行ってるのか――」
候補として挙げられたどこの店でも、言われた特徴に覚えはあるが連泊はしない客だ。ということで足取りはつかめず、その傾向から割り出したのがこの店だったが、予測が外れたか――あるいは、間が悪く皇都を立った後か。
じっと待つことに飽き始めた辺りで、
「ゼネス様! アレを‼」
マルチナが立ち上がり入り口を指差す。
頭に巻いたバンダナに羽飾り。首に巻いたバンダナに羽飾り。腕に巻いたバンダナに羽飾り。腰に巻いたバンダナに羽飾り。そして、それぞれに紐。
聞いた通りのトンチキ衣装の男を発見した。
そんな奴が居るもんかと、サンパダに聞かされた時には突っ込んだものの、まさか本当に実在するとはな。マルチナがつい立ち上がった理由も頷ける。
「ちょっといいか?」
受けた衝撃もそこそこに、素早く近付き席へ誘う。
「ミーになにかヨーですか?」
今度はその口調にも驚かされるとは、思ってもみなかった。
「・・・商売の話をしたくてな」
「オー‼ お客サンでしたか‼ いいですヨー‼」
聞いていた通りには陽気で恐れ知らずなようだが、それ以上に癖が強い。
本当にコイツで大丈夫なんだろうか?
そんな不安を払拭するべく、俺はこの行商人に様々な質問をぶつけた。
―――結論から言おう。
わからねぇ。
嘘をついているようには思えねぇし、裏があるようにも見えねぇ。
ただ、信用できる顔でもねぇ。
ありとあらゆる面でノリが軽く、考えが浅い。
「なぜ行商人になったのか?」と聞けば、『性に合ったカラ、ですかネー』と答え。
「旅は時に危険なものではないか?」と尋ねれば、『それもまたダイゴミ! というモノですネー』と謳い。
「そうまでして得る利益に満足しているか?」と問えば、『お金が全てではありまセンヨー』と笑う。
では、「信じているものはあるか?」と踏み込めば、『部族の教えです』と切り返してきやがる。
その一瞬の真顔に悩まされてると、聞いてもねぇのに自身のバンダナと羽飾り、あと紐と玉留めは、部族の教えに関係があるんだとか言いながら売りつけてくる。
旅先でなんつーもん売ってんだよ! 思わずそう言いそうになるぐらいには押しが強く、だが売りたいならもう少し見た目をどうにかしたらどうだ? とも言い辛いぐらいには信心深い。
あちこち身に着けてるバンダナやらは、その都度挟まってくる部族の教えと関係があるらしく、それを語る顔には信用も置けるが、売りつけてくる姿勢にはそうもいかない。
どうにも測りがたい人物だ。
年齢も俺よりは年上なんだろうが、老いてるという印象を受けるほどではなく、言葉も中途半端だが破綻しているわけでもねぇ。
信用できる仲間になるなら心強いが、そうできねぇなら最も警戒するべき存在になる。
どうしたもんかと迷っていると、
「どうやら言いにくいコトある見たいですネー? でもー、ミーはそろそろ部屋に行かなければなりまセーン」
見透かされたかのように席を立たれる。
引き留めるべきかさえ定められないまま、
「もし、ナニかあるのならー? 明日の夜はマンサ商会に寄りますのでー、その時にでもお願いしまーす。それデハー」
一際変な行商人は去り行く。
あまりにも不自然な言葉を残して。