作品タイトル不明
販路の軌跡
「そういうことでしたら、迷わず私共にお任せいただけるかと思っていたのですが・・・私もまだまだということですかな?」
暇そうにしていた関係者に声を掛けて、サンパダに事情を話すとチクリと刺された。
「世話になっといてこう言うのもなんだが、ふと思いついちまったんでな」
「いえいえ冗談ですよ。確かに我が商会は東方面には疎い」
そう言いつつ、サンパダは資料を用意してくれるようだ。
マンサ商会がガルバリオ皇国の東側に疎い理由は単純だ。サンパダが冒険者に憧れ、冒険者と商売がしたいと思ったからだ。
この国で冒険者が目指すのは南の霊峰か、そうでもなけりゃ修行がてらに北の荊棘の庭周辺へモンスター狩りに向かうぐらいで。比較的平和な東側に向かうのは、引退して田舎に引っ込んだり、村付きとして定住したいような奴ぐらい。
西側はまだガルドナットの存在により行き来することもあるだろうが、冒険者と関わりたい商人なら、東側に目が向かねぇのは仕方ねぇことだと言えるだろう。
「ウチの人間からですとこの資料にある者達くらいでしょうか? それでも、東への往来となると・・・直近でも1年か2年か。それくらいの時間は空いているはずです」
写し絵込みで出された資料をマルチナへ横流しにする。
その数は5枚。
しかし、その全てに目を通しても、
「残念ですが、この中に見覚えのある方はいません」
マルチナは首を振るばかりだった。
「そうか。東っつってもルーヴェント領は結構奥地だしな。共和国への伝手でもなけりゃ経由はしねぇか・・・そう言った顔に心当たりが有ったりはしねぇか?」
「共和国と――ですか。大変申し訳ありませんが、あちらは既存の商会との繋がりが強く、一代で盛り上げた我がマンサ商会といたしましては、販路がイマイチという理由で早々に手を引いた経緯がありまして」
「そうなのですか?」
「はい。ミョヒリー共和国は安定や安全を第一に、堅実な運営を目的とした国家でして。個人ならまだしも、団体として相手にしてもらうにはそれなりの規模でなければ歯牙にもかけてもらえないのです」
「そこまでやっても、組織の腐敗と強敵からの搾取で参ってるってんだから、安定や安全ってのがなんなのか。わからなくなるがな」
「腐敗と搾取?」
「共和国は戦争を避けるために色々な条約を周辺諸国と結んでいるのですが、その中でも過去にゴウガ帝国と結んだ条約が少々一方的と言いますか。戦いを避けるあまりに、その足元を見られたような形で締結させられたのです。その結果として共和国内の権利のいくつかを帝国に奪われ、権力者はこぞって帝国の足を舐めた。共和国にあった大きな団体の中には、帝国からの使者を重役に据える所も多く現れ、共和国内のお金は帝国に流れることとなり、経済は縮小。現在も貧富の差が広がり続けています」
一時期は東から流れてくる難民の話が子供にまで聞こえてきたぐらいだ。
相当な社会現象だったし、それほど帝国の力は脅威だと知らしめられた。
当時はまだ睨み合いになってから10数年。一触即発の空気が残っていた頃だ。
「私の両親も東から来たらしいのですが、それが原因なのでしょうか?」
「どうでしょうか? 大きく言うなら一因ではあるかもしれませんが、ご両親は共和国に根付いていた方なのですか?」
「うーん・・・どうなんでしょう? あまり昔の話は聞かなかったので」
「そうですか。いえ、そうかもしれませんね。故郷を捨てた話など、子供に聞かせたくはないでしょうし」
「そういうものでしょうか?」
「そういうものですよ。ねえ、ゼネスさん?」
「故郷だなんだと言われてもな。俺には碌な思い入れもねぇよ」
俺に懐かしむべき場所があるとするなら、それは北の要塞ではなく皇都の学園や冒険者ギルド、又は教会の片隅にある汚ねぇ小屋か。
「それもそうでしたか! これは私としたことがうっかりしていましたな。―――っと、うっかりで思い出したのですが・・・1人。我が商会の人間ではありませんが、陽気で恐れ知らずな東側出身の行商人が居りました」
ポンと手を打つサンパダからその行商人の所在を聞き、俺達はすぐにそこへ向かった。