作品タイトル不明
離間の刻10
「なにを・・・・・・、言っているのでしょう? 私はただ――」
「望福教の素晴らしさを説きに来ただけ・・・か? 嘘も甚だしいな」
「なにを根拠にそのようなことが言えるのです‼ 私の考えは私にしかわからない‼ 知った風なことをおっしゃらないでいただきたい‼」
「根拠か。簡単なことではないか? もし、本当に素晴らしさを伝えに来たのだとしたら、貴公の行動は説明がつかんのだ」
「私の、行動に説明がつかない? どういう・・・意味でしょう?」
「そのままの意味だ。貴公は理屈に沿わぬことをしている。今現在もな」
「今現在? 私は今もこうして望福教の素晴らしさはなんたるかを――」
「違うな」
悪くない食いつき方だ。乗って来たと言ってもいい。
ここで教祖が止めに入ってきてたら厄介だったが、まだ気づいてねぇのか、予想だにもしてねぇんだろう。その兆候はない。実にありがてぇこった。
「貴公のやっていることは復讐だ」
「復讐⁉ 私がそのような野蛮なことをしていると⁉ なにに対して⁉」
「貴公を救わなかった教会と、そして・・・目の前の父へ、のな」
「――ッ⁉⁉⁉」
「考えてもみろ。素晴らしさを伝え説くだけならば、なにかと比べる必要などない。変わらぬはずだった日常が、こうも彩を得たという体験談だけでも人は惹き付けられるだろう。だが、貴公らはなぜか加護信仰を掲げる教会と対立し、まるでより恩恵があるかのように吹聴した。理由もなしにそのようなことはすまい? ではその理由とはなにか? 最早問うまでもないな?」
そこまで言って、ようやく教祖は目の色を変える。
特徴的なその目に、焦りと戸惑いの色がかかる。
「我らにそのような意図はございません。しかし、国に幾つもの教えがあっては混乱もありましょう。派閥ができれば争いも生まれる。それは我々の望むところではない。であればこそ、陛下に選定いただければと思い、この度のような場を設けさせてもらったのですよ。なにもそんな復讐などと」
「それはおかしな話だな? 争いを避けるために陛下に選定をいただく? 宗教とはそのようなものであったか?」
どうにかして取り繕おうという教祖の発言を、ここぞとばかりに利用するようにグレアムの爺さんに話を振る。
「少なくとも儂ら教会は対立を望んでなど居らぬ。信仰とは心に掲げるもの。それを他人がとやかく言うものではなかろぅ。教会が願うのはより多くの人々の安寧。それこそが神のご加護というものだからのぅ」
「ッ‼‼ ぬけぬけと良くものそのようなことが言えますね‼ 加護信仰は過去に、精霊信仰を淘汰してきたではありませんか‼ 我々のような新興宗教も、同じようにされる可能性がないと、なぜ言い切れるのです‼」
「それは時代というものだ。儂ら教会はお主らのように徒党を組み、取り囲んでの弾圧などしておらんよ。記録にも残ってはおらぬはずだ。加護信仰が広まるにつれ、精霊信仰が衰退していったことは確かであろう。しかし、それはその時代を生きた人々が自ら選んだこと。精霊信仰とて、今もなくなったわけではあるまい。なにより、儂らは信仰の自由を妨げるつもりもない」
「そうおっしゃるのであれば、我らの信仰の邪魔をしないでいただきたい! 陛下への謁見を妨害してきたのは事実‼ その言葉には偽りがある‼」
「儂らをこの場へ呼んだのはそっちであろぅ? それに、ライゼン陛下は体調を崩されて伏せっておられる。今はその時ではなかろぅと言うのは善意だと思ってもらいたい」
理路整然とした返答。
ここまでくれば、集まった全員が疑問を抱いたはずだ。
ではなぜ、このような状況になっているのか? その原因とはなにか?
そんな疑問を思い浮かばせられるほど、この場は混沌としてきた。
教祖の登場。その目の開示。動揺の露呈。主張の懐疑。
いくら操られていようと、これだけ感情を揺さぶれば自我が出てくる。
現に。集まった観衆は鎮まったまま、次の言葉を待っている。
「改めて問おう。貴公らが教会と対立し、このような場を作ったその理由とはなんだ?」
苦虫を噛み潰した様に歯を食いしばる教祖。
なんと答えればいいか、わからないんだろう。
まさか本当の目的を言うわけにも行かねぇだろうからな。
そしてそれを、
「それはもちろん。私の復讐のためです‼」
望福教の教えによって救われたと感じているグレンゼーが見過ごせるわけがねぇ。