作品タイトル不明
離間の刻9
「・・・ありえない⁉ こんなことが―――ッ⁉」
そう長くはない時間の出来事。
直ぐに魔法は解除して半透明の時間は終わる。
次元を隔てていると相手の声とか聞こえねぇからな。
実際には、この竜の眼でなにができるのか・・・それはわからねぇまま。わからねぇ以上は牽制が必須っつーことでやってみただけなんだが。
これだけの反応がみられたんなら、ハッタリとしちゃぁ上々だろう。
そうハッタリだ。
見せかけだけのこけおどし、言った通り魔法で見せかけただけ。
だが、どうやら勝手な思い込みからか俺にも似た能力があるとでも思っているんだろう。
「早すぎる―――他の誰かが・・・ッ⁉ いや、それならば―――‼‼」
とかなんとか、見事なまでに狼狽えてくれている。
声も小さく、早口過ぎて聞き取れねぇのが残念だ。
「どうしたのですか⁉ 教祖様⁉」
と、心配そうに気遣うグレンゼーにも反応できないほどに狼狽えていた。
ここでどう動くか。
その重要性をわかってねぇわけじゃねぇ。
できるならゆっくりと様子を見つつ方針を決めたかった所だが、
「教祖様‼ あんなのものは見せかけだけです! お気を確かに‼」
グレンゼーが核心を突く助言を出しやがる。
まだ聞こえてねぇうちに大勢を決めちまわねぇとな。
せめて名前だけでも聞けてりゃぁ今後の情報集めも捗っただろうに。
「取り乱しているところ悪いが、貴公らの主張はなんだったか?」
「・・・ッ‼ ですから、国の教えを我が望福教へ――」
「その望福教とは、現在の教えとどう違い、なぜ優れていると言える?」
「我らが教えは真実の下。人を愛さぬ神に跪く意味などないと断言できます。なぜなら、人の望みを叶えるのは人の心! 真摯なる思いにこそ! 世界は呼応するのです‼‼ その事象こそを! 人は奇跡と呼ぶのですよ‼‼‼」
普通ならここで証明してみせろとでも言うんだろうが、それじゃぁ相手の思う壺だ。
この状況を作っておいて準備がねぇなんてことはあり得ねぇ。
だから、やるべきはその逆。
教祖のやったことは本当の意味で望みを叶えたたわけじゃないという証明。もしくは俺自身が神に等しいという証明。あるいは、その両方だ。
「そちらの信者は皆その奇跡を目の当たりにしてきたのか?」
「もちろんです‼ 全ては教祖様の導きの下‼ 私達は奇跡を享受し、その凄さを痛感したからこそ‼ こうして望福教の教えに従っているのです‼」
「つまり、神には叶えられぬ願いがあったと。与えられた加護では足りなかったと。そういうことだろうか?」
取り乱していたはずの教祖に笑みが戻る。
話の流れが帰って来たとでも思っているんだろう。
それを証明するかの如く、グレンゼーは高らかに声を上げる。
「望福教へ身を置く信者達は、そのすべからくがそうだ‼ 神の加護だなどと言いながら‼ その加護にレベルという段階を与え‼ 優劣を付ける‼ 神というのであれば、全ての人間に対して平等であるべきではないのか⁉ その差はなんだ⁉ 私と‼‼ その愚かな教皇とでなにが違う⁉⁉ そんな不確かなもので人の価値が決まる世界など‼ 正しいわけがない‼ そうだろう‼」
それは魂からの叫びに違いない。
教会を取り巻く環境が健全だとは俺も思わねぇ。
「では、自身の加護のレベルが低いことに不満があり、それを理由に教会の教えを拒絶し、その中で望福教へたどり着いた。そうして、教祖を名乗るその者の奇跡を目の当たりすることで、入信をしたということだな?」
「そう単純な話ではありませんが、有体に言えばそうなるかもしれません。もちろん教祖様の奇跡あってこそですが・・・」
「で、あれば。であれば、だ。貴公の加護レベルは上がっているのだな?」
「―――は?」
そこまでの熱量を急速に失うかのような間の抜けた声が転がる。
「なぜ、そうなるのです?」
「なぜといわれてもな。先程の言が全てだろう? 加護に存在するレベルという段階。その優劣により、己が不幸になった。そして、その原因を改善するのが奇跡ならば、当然加護のレベルを上げることになる。そうだろう? なぜなら――」
グレンゼーがこの立ち位置にいてくれて助かった。
「――貴公は打ちのめされた現実を見返すため、この場へ赴いたのだから」
ある程度とはいえ、過去のことを知っていて。尚且つ、その対抗心がよくわかるからな。