作品タイトル不明
瞬間の掌握
「これはまたいきなりですね? とんだご冗談を・・・」
「なにをいう! 冗談などではない! 公爵家はどれも皇族の血を引く家ばかり。その公爵と婚姻を結ぶのであれば、皇王となっても何の問題もない」
「問題は大ありですよ! 皇太子殿下を退ける正当な理由は? その後の順位を飛ばしてまで、継承権の低い者の、さらに言えばその配偶者を皇王位に付ける正当性はどうするつもりです⁉」
「私の推挙のみでどうとでもなろう。ライザンの奴は喜ぶであろうしな」
「それこそ内乱の種になりましょう。なぜです? クライフを外してもまだ、他に皇子がいらしたでしょう。皇太子殿下の息子。陛下のお孫様も皇王になりたいとおっしゃっておいでなのですよ⁉ それを―――ッ‼」
「ライザードか。あやつはまだ足りなすぎる。なにもかもがな」
「えぇ、ですが未来はある。経験も、知識も、力や絆さえ、お孫様はこれから手に入れられるのです。その希望を奪うようなことを安易になさらないで頂きたいのです」
「そなたの言う希望とやらは・・・本当にあると言えるのか?」
「どういうことです?」
「今を乗り越えずして、未来を思い描くその姿勢こそが、敗北を呼ぶのだと言っている」
ここまでは、まるで少年のように話していた陛下の表情が、真剣なものへと変わり、強く鋭い視線でもって――その覚悟を問うてくる。
確信めいたなにかを秘めたこの問いかけにこそ、意味があるはずだ。
そう思うが故に、俺の返答は遅れた。
「私の犯した失態がそうであったようにな」
そんな俺にかけられた言葉には、後悔や懺悔と言った感情以外にも、郷愁あるいは羨望のような・・・・・・もう手に入らないなにかを思わせる魔力があった。
陛下が犯した失態の裏になにがあったのか、その失態がどのようなものであったかさえ知らない俺には知り様がないことだが、恐らくはなにか。
希望を抱いて、夢を見ていたのだろう。
しかし現実には戦争となり、その夢はついぞ叶わなかった。
ただ、わかることがあるとすれば。
その原因が今、同じようなことをしでかそうとしているということ。
だが、
「敗北は痛ましいことですが、意味がなかったわけではありません」
戦争当時はわからなかった。
だから止められなかった。
けれど、
「陛下をはじめ、そこから立ち上がった方々が居られ。そして私をはじめ、そこから産まれた者達が居ります。決して同じではないのです。同じことになど、なりはしないのです」
俺達は知っている。
敵がなんなのかを知っている。
その目的も、手段も、今はわからない。
それでも、
「そうするために私はここへ来たのです。陛下の力をお借りしに。ですので、陛下‼ どうか、私にそのお力を。どうか、お貸しください‼」
必ず希望を残してみせる。
誰かのためでもなく、なにかのためでもなく。
自分で選ぶ未来のために。
俺は椅子から降り、地面に手を付き、額をこすって願い奉る。
恐れ多くも、この国を預かる皇王陛下へ。
自らの願いのために。
賤しくも首を垂れるのだ。