作品タイトル不明
間接の在処
「そんな・・・ことが?」
「可能性の話ではあるがな」
未だに我が皇国は北にそびえる帝国と戦争状態を維持している。
維持しているとはいえ、この数十年は直接的なぶつかり合いもなく、和平こそ結んでいないが実質停戦状態である。
その戦争の裏に望福教が?
「いえ、ですが望福教というものの設立には、教皇の親族に深く起因しているはずです。しかし、その人物は戦争当時まだ小さな子供。陛下の言うような懸念は・・・」
「ふむ。本当にそうであるかな? その人物というのは、うまく乗せられただけなのではないか? あるいは、その思想にあてられたということは?」
「それは―――・・・・・・」
証明のしようがない。
なんせ思想だ。掴みようがねぇ。
本当にそんなことがあり得るのか?
だが、もし―――。
「陛下の勘が正しかった場合ですが・・・そうしたら先の戦争というのは」
「なにものかに踊らされた可能性があるな。私だけでなく帝国さえもが」
ゴウガ帝国。
この南東大陸の覇者。
大陸北部のほとんどを国土とする一大国家。
元は北の果てに打ち建てられた小国だったらしいが、侵略と制圧を繰り返し、帝国と名乗れるほどの大国にまで上り詰めた。
そんな国家さえ、動かして見せたと?
そんなことをしでかした誰かが、今この国で暗躍していると?
「張本人であるならば高齢であるはずですが・・・」
「後継者が彼の人物なのかもしれんが・・・この手腕。低く見積もってよい相手だとは思わんな」
先の戦争でもそうだ。
もし教会が陛下を支持出来なかったら、どうなっていた?
皇王のすげ替え、戦争の拡大、それによる収入の偏り。
最も恩恵を受けるのは全てを操っていた可能性のある望福教だ。
その結果、皇国が帝国に吸収されていたかもしれない。
「帝国の手のものだと思われますか?」
「以前はそう思っておった。しかし、今はそうは思わん」
「理由をお聞きしても?」
「もし帝国の手先であったのなら、今まさに帝国が攻めて来ぬことを可笑しいとは思わんか?」
そうだ。
帝国とは和平を結んでいない。
この混乱に乗じて襲ってこない理由がない。
「ですが先の戦争の話を聞く限りでは、帝国と無関係とも思えません。なにか意図がある。あるいは、帝国側でなにか別の動きがあったなら・・・」
「今後、また戦端が開かれることになるかもしれんな」
国教を入れ替えてからが本番の可能性もある。
精神魔法で大衆を動かせるようになれば、できることは格段に増えるだろうからな。
「しかし、そうなったとしても。私はもう戦場に立つこともかなわんな」
「その時にはライザン皇太子殿下が立派に代わりを務めてくださいますよ」
「アレはそういうたまではない。政務に関しては優秀ではあるが、それ以外ではてんでダメだ。人前に立つことさえ憚るなど、皇族としてどうなのかと常々言ってはいたのだがな」
「ですが皇太子。皇王位継承権の第一位でしょう? その資格があればこそ。陛下も選ばれたのでは?」
「イーライとニドライが内戦騒ぎなどを起こした結果に過ぎん。言った通り、政務に関しては私以上なのだがな・・・・・・」
悩まし気に頭を抱える皇王陛下などという珍しいものを見て、俺は苦笑する。
陛下であっても人の子であり、育児には苦労をしていたのだなと。
「そういえば、そなたはマーラグ公爵と婚約したのであったな?」
失礼なことを考えていたせいだろうか? 陛下の顔が弾かれたようにこちらを向き、尚且つ。出来れば触れてほしくない話題が、しかもとんだ勘違いまで伴ってぶつかってくる。
「いえ、それは―――」
どこから話せばよいやら考える間もなく、
「それならば丁度良い。そなた、皇王にならぬか?」
とんでもない発言が飛び出てきた。