作品タイトル不明
間者の捜索
「そなたは私に、なにをさせようというのだ?」
「宮仕えをしている魔法使いについて、お教えいただきたいのです」
「ふむ。それはなぜだ?」
「望福教は精神魔法を悪用しているかもしれないのです。精神魔法で強い効力を発揮するためには、魔法の技量以外に、対象との関係値が大きく作用します。お互いの信頼度が高いほど効果を受けやすく、効力も高くなります。陛下の体調不良でさえ、もしかしたらと・・・」
「そのようなことまでできるのか?」
「やろうと思えば」
「なるほどな。後にある本棚。その中に一際分厚い書があるだろう?」
振り返ってみれば確かに。
他の本とは違い背が低く、けれど分厚い紐止めの書が1冊。
「それはこの皇宮で働く者達を記録した名鑑。その写しだ。必要であるなら持っていくが良い」
手にとって開いてみると、中には名前から特徴、果てはその仕事ぶりまで事細かに記されている。
「――しかしな」
その名鑑に目を通すことに意識を割かれていた俺に、陛下は言葉を続ける。
「私の体調不良の原因が精神魔法だなどと・・・確証も無しに語るものではない。私の年齢を鑑みれば、なんの異常もない方が不思議だろう」
「それはそうですが、急なことだったと聞いています。この時期にこれだけのことが重なるかと聞かれれば、誰だって懐疑的に思おうというものです」
「そうかもしれん。だが、そこに名のある者達は長年、我が皇族に仕えてきた者達かその血縁、あるいは子弟だ。その者達を疑うということがどういうことか、わかっておるのだろうな?」
「視点を変えれば皇族の能力を、もっと言うならば、陛下の人を見る目を疑うことになります」
「その通りだ。であるならば、滅多なことは口にせぬことだ。私はこの皇宮で働く者達を心から信頼しているよ」
その言葉に偽りはないのだろう。
この名鑑に、事細かに書かれた仕事ぶりの中には、陛下にしか知り得ないようなことも書かれている。
そして、その名鑑を陛下は自室に置いている。
それこそが陛下なりの信頼の証・・・なのかもしれないが。
「具申いたしますと。その心こそを利用されているのではありませんか?」
「なに?」
「先程も申し上げた通り、精神魔法は心の繋がりこそを注視します。信頼が厚ければ、それだけ効力を発揮しやすいのです。なにより、どこでどんな職についていようと、人は人です。どうしても抗えないことがあるのかもしれません」
「どういう意味だ?」
「宮仕えと言えど、家族の命をチラつかされては命令に逆らえないのではないか? という話ですよ」
「む! しかしそうすると、私の命はその者にとって、家族より安いということになるな」
「なにを大切にするかはその者次第になりますから、仕方がないことかと。ですが、その者も。陛下を信頼してのことかもしれません」
「私のなにを信頼していたらそうなるというんだ?」
「陛下がこの程度のことで倒れるはずがないという。今まで見てきた姿への、強さへの信頼・・・ですかね」
「そなたは口がうまいな。そのあたりはダンデとは似ても似つかぬ」
陛下が笑う。
俺もその言葉を聞いて、御父上に冗談は言えそうにねぇもんなと可笑しく思う。
そこで、
「そういえば――」
と陛下がなにかを思い出したようだ。