作品タイトル不明
淡々とした承認
「そういえば、行方不明の子供がいるのだったな?」
「え、ええ! そうなのです‼ なのでその、捜索に協力をと・・・思っていたのですが・・・」
こっちも予想通りの食いつき、そして視線は後ろの子供達へ向けられ、やがて言葉は弱くなり尻すぼみに。
「その子供の年齢は?」
「数え年で10に」
「人数は?」
「4人になります」
「いつから行方知れずになった?」
「おおよそ2週間前かと・・・」
10歳の子供が4人で2週間。
絶望的だな。
「悪いことは言わん。諦めろと伝えてやれ」
「そんな⁉」
「既に捜索自体は行ったのだろう? 痕跡は見つからなかったのか?」
「モンスターに追われた形跡はありました・・・しかし! まだ手遅れと決まったわけでは‼」
「子供とは言え、この地で育ったのだ。地理に疎いということはあるまい。水場や食料を確保できる場所、安全あるいは危険な場所の見当は付くはず。その子供達が2週間も戻らない。なにかあって然るべきだろう。それとも、この辺りには子供を匿う妖精でもいるというのか?」
「ですが! 証拠も無しに状況だけで諦めろなどとは――‼」
「それは貴様らの怠慢が原因だろう? その一端を押し付けられてもな。こちらが受けたのはモンスターの討伐、それだけだ。安心しろ。件のゴブリンは1匹残らず殺し尽くす。後続の被害者が出ることはない」
「怠慢⁉ 怠慢ですと⁉ 私共がどんな生活を送っているかも知りもせず‼ そのようなことを言うのですか⁉」
いい感じに乗ってきたな。
こんなやり取りをすれば、当たり前だが空気は悪くなり、子供達にも不安が広がる。
ここらでゴブリンの危険度や最低限の対策を注意しておけば、よほどの馬鹿でもない限り気を付けるだろう。
そうなれば実戦は楽になるし、怪我人が出ても。よほどの馬鹿だったからという言い訳ができる。
これは俺から言うんじゃなく、子供達から証言させれば怪我人の親も黙る。
貴族を親に持っていいところは2つある。
1つは親がうるさいこと。もう1つは親がうるさくないことだ。
矛盾するようで矛盾しないこの2つ。
貴族とは面体を大切にする生き物だ。
それが危機に晒されればうるさくなり、それが危機になると知ればうるさくなくなる。
この場合は、跡継ぎがよほどの馬鹿だと知れ渡るのを防ぐために黙るって寸法だ。
「違うとでもいうつもりか?」
「違わないというのですか⁉」
「当然だ。相手がゴブリンなのだからな」
「だからあのような子供達を連れてきたの言うのですか⁉ モンスターを甘く見すぎている‼」
「貴様こそ、ゴブリンのなにを知っている?」
「もちろん、その危険性を知っていますとも‼ 安全な皇都とは違い、この村には周りを囲う市壁もないのですから‼」
「ならばなぜ、子供達が帰らなかった時に不審に思い、戦わなかった?」
「それは私達では敵わないからに決まっているでしょう‼」
「この村に成人した男は何人いる?」
「それになんの関係があるというのですか⁉」
「質問に答えろ。何人いる?」
「100人はいるでしょうな。それがどうしたというのです⁉」
「冒険者ギルドが定めるゴブリンの危険度はF。これは最低等級であるE を下回る。そして、E等級は10歳以下の――いわゆる冒険者には出来ない子供へ与えられる子供騙しの等級だ。つまり、純粋な1対1であれば子供でも負けることはないと暗に示しているわけだ」
そうゴブリンとは、言い換えれば最弱という意味でもある。
「2匹居て初めて危険度E。戦う意思のある子供程度だ。それも、子供に勝ち目のある相手だ。成人した男なら個人差もあるだろうが、3~5匹ぐらいは素手でも勝てる。武器を持っていたとしても同じだ。この村には槍の1本もないのか?」
「そんなことはありませんが・・・素人に武器を持たせても、モンスターに適うわけがないではありませんか‼」
「ほう? ならば敵のゴブリンは歴戦の猛者揃いなのか? 戦いもせず、よくそんなことが分かったものだな?」
「それは・・・・・・」
「奴らの危険性を承知しているのであれば、奴らが初陣で生き残る割合も存じているよな? 約1割。10匹に1匹生き残ればいい方なわけだ。ということは、この村の近くに巣食うゴブリンは随分と手練ればかりになるようだが・・・その割には被害が少ないように見える。それほど生き残っていれば、上位種が居てもおかしくはないと思うのだがな?」
ぐうの音も出ないのか、村長は押し黙る。
実際、半年間も生き延び続けているなら上位種は居てもおかしくはないが、被害が少ないことから大したことねぇ個体だとわかる。
人的被害が子供4人なところを見ても間違いない。
期間にしても2週間であれば繁殖数もさほどだろう。
むしろ、乳児を育てるために戦力が低下している可能性の方が高いか。
「上位種がいたとして、ゴブリン共の数が50を超えてようやくC級。それでも、大の男が100人掛かりで武装して出向けば、子供達を奪い返すぐらいはできただろう。それをしなかったのは貴様らの都合。こちらはその尻ぬぐい。拒否しても構わないが、冒険者へ依頼できるほどの金と学園への補填が用意できるのか?」
「・・・拒否などいたしませんよ・・・いたしませんが! 生きているかもしれない‼ なのに、それを見捨てることなど‼ せめて‼ 証拠を―‼」
「見ねぇ方がマシなもんだってあるだろう? あって食い荒らされた後か、形が似てるだけのなにかだ。我が身可愛さに見捨てた以上、胸張ってきっちり伝えてやれよ」
それが責任だ。
「――・・・そうしなければ、この村は立ち行かなくなってしまう‼ それを承知で助けになど―――っ⁉」
将来的に見れば子供は必要だ。
お貴族様と違って跡取りが必要なのではなく、単純な労働力として必要不可欠な存在だ。
だが、今の労働力がなくなっては元も子もない。
その言い分はわかる。
わかるが、知ったことじゃねぇ。
あくまで俺達は外様の人間。そこまでの面倒を見るいわれはねぇ。なにより、そんなことで無駄に生徒達を危険へ晒すつもりもねぇ。
だってのに。
「・・・では、ゴブリンのことはお任せします。ですが、ご注意ください。その子達は行方不明になったあの子達よりも幼い。少しの間違いでもあれば、すぐに攫われてしまうかもしれませんから」
などと、呪いじみたつまらねぇことを抜かしやがる。
「同じように語ってくれるなよ! こいつらはてめぇの面倒ぐらいてめぇで見れる! 軽率な行動を取って攫われるような真似はしねぇよ! 物事の良し悪しぐらい、叩きこんであるからな!」