軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

微難、美女

「私からは皇都で開かれる社交界での暗黙の了解について、ご紹介させていただきますわ‼ なぜそういたしますかというと、昨今。あらぬ勘違いが広がっているように感じたからでございますわ‼」

この発表の順番については挙手制にした。

生徒の積極性を知る事もできる上、どれぐらい物事を把握できているか、自信のあるモノはなにかといった個人的な傾向もわかると踏んだからだ。

その結果、一番槍に名乗りを挙げたのはビューティー。恐らくはキューティーの妹かなにか。

こういった発表で先頭をきるのは勇気がいる。

後に続く場合は先に発表した誰かの真似をすれば、そのやり方が合っているにせよ間違っているにせよ、それなりの形になるからだ。

先頭にはそれがない。故に、不安や恐れが付きまとう。

ビューティーの切り出し方はそれを感じさせないほどの勢いがあった。

恐れ知らずとでもいえばいいのか、そういうところにキューティーと同じものが見え隠れするが、ジェイドに付き従うキューティーとは違って、先頭に立つだけの胆力も持ち合わせているようだ。

いや、キューティーにもあったのかもしれねぇが、今はジェイドが1番って感じだったからな。

「よろしいですか⁉ ダンスは男性から誘うのです‼ 爵位などは関係がありませんわ‼ 礼節を重んじさえすれば、私達は断れませんの‼ そして、誘うのは1曲ですわ‼ あまり長く踊らされてしまうと疲れてしまいます‼ 私達女はドレスとヒールで着飾っていますのよ‼ そういった気遣いを忘れてはいません‼」

力弁というか、熱弁というか・・・必死さが伝わる話だな。

「社交界では男性が女性の手をひくのです‼ これは義務ですわよ‼ 年齢などは関係ございませんわ‼ 身分が低いだとか、年齢が低いだとか、美醜に隔たりがあるだとか、そんなことは関係がありませんの‼ 誰にも誘われない女は! 子供であっても恥ずかしいものなんですの‼ 男性の皆様にはそういった方を見つけた場合は是が非でも、お声を掛けていただきたいのですわ‼ そうすることで、救われる思いもございますの‼ そこから生まれる恋だってありますの‼ 身分も、年齢も、美醜も超えて・・・・・・――。そんな憧れの恋がそこにはございますのよ‼ なので、身分の高い年上の、ともすれば高嶺の花と呼ばれるような相手であっても、恐れることなく声をおかけください‼ また、その全くの逆であっても・・・でございますわ‼ 女に恥をかかせる男など、以降は噂となり結婚相手も見つかりませんことよ‼」

以上でございますわ‼ と、いうだけ言って教壇から退く。

俺が思っていた話し方じゃぁなかったが、周りを圧倒するだけの実感があった。もしかすれば自分に起こったことだったのか、あるいはその現場を見たんだろう。

社交界になんぞ碌に参加したことがねぇ俺にはわからねぇが、その裏でこうやって涙を流していた令嬢や令息が居たのかもしれねぇと、思わされるだけの力があった。

しばらくの間が空いてから、まばらな拍手が聞こえはじめ、それがひとしきり終わったところで、次の生徒が手を挙げる。

「じゃあ今度は私から! 庶民の貴族へ向けた態度について、教えられたことを話します‼」

そう言ってこっちへ向けてにっこりと笑うのはエイラス。

「お父さんは隠しておきなさいって言ってたけど、先生が話した方がいいっていうから、先生に従おうと思います‼」

2つの内容を天秤にかけて、きちんと判断を下せるのは立派だと思うが、そうも表向きに語られると責任を感じるんで、辞めてもらいたいんだがな。

「この学園は私のような庶民、平民と呼ばれる人間も通うことができます! そのことはお父さんも凄いなって褒めてました‼ でも、この学園は貴族の社会とも深くつながってるから、粗相を働いたら大変なことになるとも言ってました‼ 最初は意味が分からなかったけど、今はわかります‼」

さらに続けながら、教壇から送られるエイラスの視線は特に一点で止まる。

ライザードだ。

現皇太子の息子ともなる人物がいれば、まぁその重要性は他と比べ物にならないだろう。

「初めに、中間名を名乗らないこと。これはさっきも言ったと思うけど、少しでも自分を下に置くためだって言われました。それは自分を大きくしないため。それと、もし粗相をしても洗礼もまともに受けていないのだからと、許しをいただくためだ。ともお父さんは言ってました‼ 礼儀、教育にはお金だけじゃなくて、品格も必要なんだと思ってもらうことで、貴族様の気を悪くさせないための配慮なんだそうです! りゅーいん? を下げてもらえるって」

その考えは的を射てるが、それを言ったら逆効果だろうに。

つっても、貴族側からしても”そういう風にみられている”という情報が出るのはいいことだ。鼻にかけた態度でいれば、裏では馬鹿にされているんだと知る機会になる。

それを知ってどう行動するか・・・も、器を育てることになるしな。

「他にも、計算の問題はわざと間違えるかゆっくりと答えるようにしなさい。歴史の問題はわかっても誰かに答えを聞くようにしなさい。貴族様に聞かれたことはできるだけ素直に答えなさい。常に笑顔を意識するように。そんなことを言われました‼」

子供達の中では、なんでそんなことを? という疑問が飛び交っているようだが、俺にはわかる。

この父親は、随分と本気でエイラスを取り入らせるつもりだったんだなと。

マンサ商会は西の商業国:ガルドナットにさえ支店を出せるほどの商会だ。

今では大商会といってもいいだろう。

その縁者が解けない計算問題を、解けると思い込んだ貴族の子供は、大層な優越感に浸ることができるだろう。なにせ、商会といえば金勘定ばかりをやっている想像になる。そこの娘より計算が早く、正確だと思えるんだから。

歴史についてもそうだ。

所詮は下民。金を持っていようとも歴史は知らぬと思わせることで、同じように優越感を与えようとしてのこと。

その上で、中間名を名乗らせず憐れみを感じさせ、尚且つ。それが自分の命令に素直な女なら、それを嫌う男なんざ居やしねぇ。それが例え年端もいかねぇ子供だったとしても、だ。

それになにより、エイラスには愛嬌もある。

見た目の可愛さだけじゃなく、普段からの素直さも知っていれば、こんな指示が出てるだなんて考えもしなかっただろう。

まさに男を篭絡させるためだけの言いつけだ。

傾国の美女にでもするつもりだったのか? ただ、そうするにはエイラスの愛嬌は過ぎるけどな。美女には向いてねぇよ。可愛い止まりだ。

ま、どっちにしても。

こうやって指示が表沙汰になった時点で、もう無理だけどな。

悪いことをした・・・と思わなくもねぇんだが、

「でも、もうしません! 先生がしなくていいって言ってくれたから‼」

俺を見て悪戯に笑いながら、そう言い残して教壇から降りるエイラスを見るに、本人にもその気はなかったのかもしれねぇ。

っつーか、俺はそんなこと言ってねぇはずなんだがな?

そういうところを見せられると、意外と美女にもなれそうで、女ってやつは怖いな。子供でも。