作品タイトル不明
出世、会同
「しかし、なぜ前隊長のことを?」
「ノクアッド卿は家柄がいいからな。お前が出世したんなら、むこうはもっと出世してるんじゃねぇかって気になっただけだ」
「そうでありましたか! その予想は的中したと言えるでありますな‼」
いいや、俺の予想なんかよっぽど飛び越えてたよ・・・とは言えねぇから、適当に会話を繋ぐ。
「そうだな。後はお前の態度と、おもり隊のあの活動はどういうことだ?」
「私の態度はおかしいでありましょうか?」
「以前を思えばな」
「いやはや、私は自分の利益には従順と申しましょうか。ゼネス様との関係には利をもたらして頂いたので、これからもそのお零れにあずかろうかと」
手をもんでのその言い分はあまりにも様になっていて、逆に疑う隙もねぇ
「なら、おもり隊のあの活動は?」
「庶民への協力のことでありますか?」
「そうだ。お前になんの利がある?」
「前隊長が言うには、英雄様への心証がよくなるとのことでありましたが・・・実際のところまではわからないであります! ただ、今までよりも評判がよくなった気はするでありますな」
っつーことは、今の活動を命じたのはベルか。
しかも、その理由が御父上だと?
「ノクアッド卿は御父上について詳しいんだな」
「ゼネス様ほどではありませんでしょうが、そのようであります! とはいえ、気になることもありますが・・・」
俺は御父上のことなどほとんど知りもしないが、今言うべきことじゃねぇ。
「なんだ?」
「先ほど申し上げた通り、前隊長は現在英雄様の右腕として。より正確には皇都軍総司令官補佐という役職に就いているでありますが。それより前に、今のような活動をするようにと言い残して昇進したのであります。結果としては悪くなかったので気にしてはいなかったでありますが、以前から英雄様とは懇意にしていたのでありましょうか? 家名から考えれば、そのようなはずがないと思ったでありますが」
ノクアッド侯爵家は主に外交を担当している。
その性質上、皇国軍・・・中でも皇都を中心に軍内への影響力は大きく、北の辺境を預かる御父上とはあまり相性が良くないと言われている。
いや、本来なら外交官と辺境軍は協力することも多いはずで、そうであれば関係は良好であるべきなのだが、皇都の北側にある国は帝国。
帝国とは現在も戦争が続いており、憎き敵国。
交渉など必要ない! と断じる過激派がいるぐらいには関係が悪い間柄。
だからノクアッド侯爵家とグラーニン辺境伯家の関係も、穏健派と過激派ぐらいの位置にある。そう認識されている。
なのに、だ。
その筆頭で英雄たる我が御父上が、ノクアッド侯爵家の一員であるベルを部下に従え。あまつさえ、そのベルは部下になるより先に英雄様の趣向を知っていた・・・となりゃぁ2人には特別な繋がりでもあったのかっつー話になる。
が、そんな話は俺でさえ知らねぇ。
いや、俺が友人の全てを知っているわけがねぇ。むしろ、家族であるはずの御父上のことさえ碌に知らねぇ俺が言っていいはずもねぇ。
だが、意味はあるはずだ。
ベルだってバカじゃねぇ。
自分が隊長だった時からそういうことは出来たはずだ。
それをやってなかった。あるいは出来なかったから、わざわざ後任のカールに言い含めてまでやらせてるんだ。
「前隊長の時はやってなかったのか?」
「やれとは言われていたでありますが、なにぶん庶民相手にそのようなことをしろと言われても。貴族生まれの我らには難しく・・・」
「それがなんで今は出来てるんだ?」
「それはやはり英雄様から評価されると分かれば、皆もやる気になるというものでありまして――」
人気だけで?
だったらベルが御父上の名前をうまく使っただけ?
そんなわけがねぇ。
それが嘘だったとバレた時の信用の失墜や、士気の低下まで考えれば得策じゃねぇとわかるはず。
「評判がいいって言ってたな? それは誰からのだ?」
「庶民はもちろん軍内部や貴族会の間でもであります!」
「貴族会からも?」
「そうであります! 社交界などでも最近の皇都防衛鎮圧部隊の評判は良いものになってきていると言えるでありましょう!」
庶民からの評判はまぁわかる。
今までは居ない方がいい。おもりをしてやらなければならないと思われていたがために”おもり隊”などと呼ばれていたのが、多少なりとも使える集団になったのだから当然だ。
軍内部にしても同じくだろう。
苦情だらけだった部隊がそれを払拭とまではいかなくとも、マシなものにしたのだ。評価もされるだろう。
しっかし貴族会だと?
貴族会とは、貴族を貴族たらしめる会のことで、その言動はなにかに汚染されたかのようなものだ。
本来なら庶民に使われるなど言語道断なんぞと宣うような連中だぞ?
それがなんでまた・・・。
これは確実になにかある。
どうにかして、ベルに直接会う必要があるかもしれねぇな。
「そうか。助かった。他になにか変わったことはなかったか?」
「いえ! ですが、変わったこと・・・でありますか? 一部盗品の行方が分からないままなことぐらいでありましょうか?」
「一部?」
「はっ! 軍部から消えたものの他に、幾つか。軍部からのものは、元から時間が経っているため仕方がないと判断されたでありますが・・・」
「なにが消えた?」
「それがあまり一貫していないようでありまして・・・生活用の小物や衣類、アクセサリーなど。食料に関しては・・・当然と言えば当然でありますな」
生活用の小物ってのは手鏡だとからしい。
衣類やアクセサリーはモノによっては金目の物に入るのか?
食料については妥当だろう。食わねぇなら盗む必要はねぇからな。
どれも取るに足らねぇな。
「特に関連はなさそうだな。なにか分かったらその時にでも聞かせてくれ」
「了解であります!」
流石にもう情報もなさそうなんで、俺はそのままカールへ背を向けて歩く。
「広場へは戻られないのでありますか?」
「ああ、急用ができた。そっちも評判上げに精を出してこい」
「はっ! それではまた! 失礼するであります‼」
タッタッタッと駆け足で去る音は遠く離れる。
皇都外周にある広場を目指すカールとは違い、俺は貴族達が蔓延る皇都の中心へと向かわなければならなかった。