作品タイトル不明
宜真、安危
取り敢えず、貴族達が居を構える中心街まで来てはみたが――。
「最高司令官の御父上が居るなら城の中だよな? その補佐ってんならベルもそこにいそうだが・・・」
だからと言って、皇王陛下のいらっしゃる城へ無断で入ることなど出来はしない。
門前払いがいいところだろう。
ノクアッド侯爵家へ赴いたところで同じような結果に終わるだろう。
身分の差ってのはそういうもんだ。
どうしたもんだか。
「おや? こんなところで奇遇だね?」
皇城へとつながる道。その途中に取り付けられた繁栄を象徴するかのような見栄えばかりを気にしたデカい噴水の前で悩んでいたら、特に会いたくもない相手から声を掛けられた。
「こんなところでなにやってんだ? ジーナ」
「随分なものいいじゃないか。これでも私は公爵だからね? 仕事だよ、し・ご・と!」
これまた鬱陶しい言い方を・・・と思ったのも束の間。
「お前‼ それはどういうつもりだ‼」
「これかい? 君も言っていたじゃないか! 失くしてしまいそうだと‼ その対策だよ」
これ見よがしに見せつけるのは指輪だ。
右腕を脇の下へ通し、左手で顎を持つ。自らを抱き支えるような姿勢だ。
その中でも注目すべきは左手の薬指! そこに嵌められた指輪! そして、その台座に埋まる石だ‼
「それが理由ならわざわざ指輪にする理由も、薬指に嵌める理由もねぇだろうが‼」
そこに輝くは見紛うことなき虹霓玉!
そんなもんを左手の薬指に嵌められたら、その石を贈った俺との関係は‼
「いやぁ、モノにはついでというものがあるだろう? 最近は父からの結婚への催促も中々に面倒だったからね。そちらの対策としても使わせてもらったよ‼」
そう言いながら高らかに笑うジーナの顔は、虹霓玉に負けず劣らず輝いて見える。
まさに満面の笑みだ。
「その石の出所については――」
「もちろん。きっちりと説明させてもらったよ。君からもらったものだとね。これほどのものだ。身に着けていれば質問もされるさ。なにより、アドレスでのことは隠しようもないだろう?」
その言葉に俺は頭を抱えるしかなかった。
ああ、吐き気を催すほどには頭が痛い。
「っつーことはなにか? お前の周りじゃ俺はお前に求婚したことになってんのか?」
「そうは言ってないよ。ただ、この石は君から貰ったものだと伝えただけさ。だから、どう思うかは聞き手次第ということだね?」
まるで自分は悪くないとでも言いたそうだな? ええ?
希少な宝石を異性から贈られました! っていやぁ、貴族界隈じゃ求婚に等しいだろうが‼
「それともう1つ」
「・・・・・・なんだ?」
「君は私の周りでは――と言ったけれど、忘れていないかな? 私は今現在、公爵家の当主だよ? ”すべては魔法の上に”は、もちろんだけれど。皇都で行われる社交界などへ参加している貴族層も皆、知っているからね?」
終わった―――・・・色んな意味で。
広大な土地を持つ3大公ではない皇都住まいの公爵とは言え、コイツにも間違いなく皇族の血は流れているわけで。
そんな公爵家のいい歳した当主が、公然の場で年齢の近しい異性から希少な宝石を贈られたと広めれば、それはもう実質的な婚約宣言だ。
今更、冗談や手違いで済む話じゃねぇ。
この場合は皇都住まいだったのも最悪だ。
領地を持つ家なら噂が広まるのも遅いが、隣近所に貴族が住まう皇都では、その手の話は光りより早く広まる。
となれば、だ。
それは公然の秘密となり、共通の認識になる。
地固めとしては十分。
ここからこの話をひっくり返せば、風評や苦情が兄上にまで届き、迷惑をかけることになる。
「やってくれやがったな・・・・・・」
「悪いとは・・・思っていないよ。この石は間違いなく君が、私にくれたものなのだからね。一つとして嘘は言っていない。それは誓うよ」
「ああ、そうだな。男に飢えた馬鹿が、こんな手段に出ることを予測できなかった俺の落ち度だ」
「っ‼ 私だって! 誰でもよかったわけではないからね‼ 家柄とか! 年齢とか‼ 後はその、興味・・・とか。い、色々考えてだね! 君を選んだんだ‼」
途中、声量が下がってなにを言ってるのかハッキリと聞き取れなかったが、どうでもいい。
今はただ、どうしようもない感情に歯噛みするだけだ。
そんな俺をあざ笑うかのように、
「それでだね、ゼネス! 時に君、なにか困ったことはないかい?」
ジーナはふざけた質問をしてくれやがった。