軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

次元

「・・・次元か。そう言われれば、わざわざ好んで使うような言葉ではない気もするけれど、意味としては通っているし、引っかかりを覚えるほどのものではないと思うよ? 結局の所、格が違うと言いたかったのだろうしね」

「そこが引っかかるんだよ」

「というと?」

「アイツはドラゴンで、しかも龍王っつー立場だ。地上全ての生物で見ても間違いなく上位種。天敵なんざ、それこそ神と呼ばれるような存在ぐらいだ。だから戦ったことはなかったし、痛みも知らなかった。当然、自分が死ぬなんてことを考えたこともなかったんじゃねぇのか?」

だが、今の状況はどうだ?

手も足も出ず、身動きさえ取れず。

その上、よりにもよって目の前で!

命綱である防御壁すら研究され始めた。

焦りを覚えたはずだ。

恐怖を感じたはずだ。

死を想起したはずだ。

喉には渇きを。指先には痺れを。眼前には白い瞬きを。

この感覚を抱いたはずだ。

虚飾は剥がれ、虚勢は削がれ、そこに残るのは・・・。

「なるほど。縋るかの如く本心から出た言葉の可能性があると、君は見ているんだね」

「そういうことだ」

人間に限らず、感情を持っているのなら、それには底があるはずだ。

それを感じさせないのが器。それを見せないのが経験。

アイツにはどっちも足りてねぇように思えた。

それが若さだって俺に言ったのは教官だったか・・・?

「とにかく。普通なら使わねぇような言葉をあえて使ったってんなら、なにか意味があるはずだ。なんでもいい! なんか思い当たることはねぇか?」

「いきなりそう言われてもね・・・」

ほんの一瞬ジーナは顎に手を当てて、

「君は”次元”という言葉を。あるいは、私達との関係性についてはどのくらい知っているのかな?」

わけのわからないことを言い始める。

「基本的なことぐらいは知ってるさ。空間の広がりを示す指標のことだろ? 点、線、面、立体がそれぞれ0、1、2、3次元ってくくりに分けられてて、この世界は3次元に構築されてる。地図や絵を2次元。文字や記号なんかは1次元って扱いにされることもあるな」

「その通り。良く知っているじゃないか!」

「・・・ふざけてんのか?」

「まさか! とても大事なことだよ! 端的に言うとね・・・私達が時空魔法だと思っていたものは。本当は次元魔法なんじゃないかと思ってしまってね?」

それが謎の答え?

いやだが!

「それだとおかしいだろ! 俺は・・・いや! 時空魔法には時間を操る力がある! 次元魔法だって言うんなら―――」

「そうだね。だからさっき聞いたのさ。君は次元について、どのくらい知っているのかってね。確かに私達は3次元に生きている。けれどそれは、世界に3次元までしか存在しないという証明ではないよ」

「っつーことは、つまり・・・」

「そう4次元。その4つ目の次元こそ時間なんだそうだ」

「点、線、面、立体ときて次が時間? なんでそうなる?」

「例えばだけれどね。空を見上げたまえ」

言われたとおりに空を仰ぐ。

どこにいようと雄大な空は、相も変わらず気ままに流れる。

その空は青く。雲と太陽がまだ姿を残している。

しかし、太陽は頂点を幾何か過ぎ去り、もうしばらくすれば焼けるような茜が射すことだろう。

「こんな危機的状況でも、変わらず空は綺麗だねぇ・・・さて。雲、よりは太陽の方がわかりやすいかな? 想像してくれたまえ。3次元的に太陽を作ったとする」

「そんなことできんのか?」

「仮に、だよ! 仮に。3次元的に太陽を模倣できたとして! まったく同じ働きはできても、同じ動きはできないんだ。太陽は毎日。決まった時間に決まった場所を通る。雲に隠れてしまって見えない日もあるけれどね?」

「それが―――・・・あ?」

それがどうした? と、そう言おうとした。

のに、続かなかった。

「気付いたようだね? 私達が動くのと同じように、物体は動く。自らの意思にかかわらず。その動きを座標としてあらわす時、必要になるのが――」

「時間ってことか」

「そうなるね。動くには時間がかかる。逆を言えば、時間を書けば動きも描けるというわけだ。だから4つ目の次元は時間ということになる」

「じゃぁあの壁は空間を4次元的に動かしてるってことになるが・・・だからと言って時間は止められねぇはずだ。それができるなら戦いなんざ成立しねぇからな。だとすりゃぁアレは次元そのものを固定してるのか?」

「それが一番、可能性としては濃厚だろうね」

「空間による干渉の拒否か・・・種はわかったが、結局こじ開ける方法は今から考えなきゃならねぇんだよな。もうそれほど余裕はねぇってのに――」

「ああ! それなんだけれどね? 無理にあの壁をこじ開けなくとも、君が次元魔法で相手の懐に乗り込んだらどうだい? ほら! 相手は防御中は攻撃できなんだろう? だったら安全に。そして一方的に殴れるんじゃないかな?」

清々しい程の笑顔で、どうだい? いいアイデアだろう? と胸を張りながら誇らしげに述べるジーナ。

確かに。

確かにそれが一番簡単で、一番有効な戦法だ。

出来るかどうかは置いといて。

ただ、

「そういうことは! もっと早く言いやがれ‼」

「えーっ⁉⁉ 折角妙案を思いついたのにっ⁉⁉」

そんな簡単な策を思いつかなかった自分が不甲斐ねぇ。

なにより、自信満々で自慢気な顔に余計腹が立ったので八つ当たりはしておいた。