作品タイトル不明
不可能を可能にする条件
真っ先に仕掛けたのはエリック。
「サラマンダーロック‼」
巨大な燃え盛るトカゲがドラゴンを飲み込み、その体を檻として捕らえ、焦がす。
《龍王たる我に火竜だとっ⁉》
あっさりと捕らえられたドラゴンは、その声に屈辱を滲ませてはいるが、エリックの魔法はしっかりと防ぐ。
燃える魔法とドラゴンの間には、もはや見慣れた虹色が差し込む透明な壁。
それはドラゴンの全身を隙間なく囲う堅牢な全方位防壁。
試しにエリックがトカゲの一部に穴をあけ、そこから。
「ガイザージェット‼」
リミアの高圧水流を出す水魔法を撃ち込んでもビクともしねぇ。
他の属性魔法やアンナの馬鹿力でも、結果は同じだった。
予想通りに反撃がないのはいいが・・・、
「やっぱり硬いな・・・」
「いつまで引きこもってるつもりよ‼ 偉そうにするんなら堂々と戦いなさい‼」
クライフが呟き、アンナが吠える。
「気付いたことは?」
「仕組みは私達が使う魔力障壁と大差がない・・・ということくらいかな? 単純だからこそ効果は絶大。複雑さがないから付け入る隙も少ない。よく出来た魔法だと言えるね?」
「褒めてる場合かよ」
魔力の流れを見ることができる魔眼を持ち、最も魔法に詳しいジーナに解析を任せているが攻略までに結びつかねぇ。
このままじゃ変わらずジリ貧か。
エリックが2つ目の魔力回復用の丸薬を使う。
その間は他の全員で攻撃して制止、そして魔力を回復したエリックの魔法によって再びの拘束。
このまま大人しくやられてくれりゃぁいいんだが、俺の失態のせいでドラゴンの魔力は潤沢。防御を削りきって――ってのは難しい。
なにか突破口を見つけねぇと・・・その一心でドラゴンの隅々まで観察していたが。
1つ。気になっていたことがある。
「アレは時空魔法・・・でいいんだよな?」
「うん? まぁ、ドラゴン特有の魔法でもなければそのはずだね? アレはいつぞや君が私に見せてくれた光と同じものだ」
「仕組みは魔力障壁とそう変わらねぇ・・・ってのがお前の見立てだったな?」
「そうだね。属性による魔力障壁の強化はわかるだろう? その応用だと思ってくれればいいよ」
魔力障壁は純粋な魔力による魔法防御術。
その原理は防ぎたい魔法より魔力量を上回らせることで、魔法に込められた魔力を消費させ打ち消すというものだ。
物理的な攻撃に干渉することは不可能。
それをどうにかするためには、属性による強化。あるいは、物理的に干渉できるまで魔力を圧縮する必要がある。
だが、圧縮した魔力を操るのは・・・たぶん無理だ。
そういう技の最上位であるあの”竜の息吹”ですら、直線的に吐き出すのがやっとみたいだからな。
そうなると。あの壁はジーナの見識通り、時空魔法で強化された魔力障壁ってことになる。
だとすりゃぁ、おかしな点がある。
「あの壁・・・なんで物理攻撃が通らねぇ?」
「? だからそれは時空魔法で強化を施しているからだろう?」
「それはあり得ねぇだろ。忘れたのか?」
「・・・――あっ‼ そうか! 時空魔法には・・・‼」
どうやらジーナも気づいたらしい。
「そうだ。時間を止める魔法は存在しねぇ」
時空魔法とは時間と空間を操作する事ができる複合魔法。
しかし、時間と空間を操れるからと言って、なんでも出来るわけじゃねぇ。
時間を操れるのは対象に選んだものだけ。
さらに、その対象の大きさに応じて魔力を大量に消費する。
そして、その時間を止めることはできない。
これが時空魔法の時間に関する基本的な条件だ。
「じゃあこういうのはどうだろう? 周りの空気を対象にして、その時間を限りなく遅くしているとか・・・」
「その場合、真っ先にアンナが気付くはずだ。アイツの攻撃は魔法じゃねぇからな。ただ遅くしてあるだけなら、それ相応の手応えが返ってくる。だが、アンナも当然のように硬いっつってただろ? だから、受けられたってよりは弾かれたって感覚なんじゃねぇか?」
「だとしたら空間・・・? けれどそれは・・・」
ジーナが言い淀むのは空間に関する条件からだ。
空間を操ると言っても存在しないものを生み出すわけじゃねぇ。
指定した2つの異なる場所を繋げるだけ。
さらに、その距離と範囲に応じて魔力を大量に消費する。
そして、その空間は確かに存在していなければならない。
「アレがどこに繋がってようと、ドラゴンの姿なんざ見えねぇはずなんだ」
転移門や転移扉の時がそうだったが、2つの空間をつなげた場合。その先の光景はそれぞれ向こう側が移る。
だから、ドラゴンがあの壁をどこかの空間に繋げてるんなら、そのドラゴンの姿は見えなくなる。逆に、あのドラゴンの姿が見えるってことは・・・そういうことだ。
つまり。
「私達の知識はなにかが間違っている。あるいは・・・」
「まだ知らねぇことが俺達にはある・・・っつーことだろうな」
その謎を解き明かせば、あの壁をぶち破れるってわけだ。