作品タイトル不明
一生に一回
「お前らはそこらに転がってる奴らをできるだけ回収して逃げろ‼」
ドラゴンの目標が俺だったため、俺が逃げるのは不可能。
なので、まだ動けそうなアンナに俺の代わりを頼む。
「なに言ってんのよ‼ アンタ‼ ドラゴンを相手に1人で戦うつもり⁉」
「聞いてただろ‼ こいつの狙いは俺だ‼ 俺が連れて逃げたんじゃ本末転倒なんだよ‼」
「だからって‼」
まだなにか言おうとするアンナを止めたのはフェリシアだ。
「アンナさん。急いで負傷者を回収しましょう。ああなったゼネスさんにはなにを言っても無駄です」
まるで俺が梃子でも動かねぇ頑固者みてぇに言ってくれる。
だが、今その解釈は有難い。
ドラゴンから魔力を吸収できたおかげで、しばらくはこんな伝説的な生物相手にも時間を稼げそうだからだ。
10分・・・いや、5分ならなんとか凌げるだろう。
それ以上はこれだけの魔力を以ってしても難しいに違いない。
そして、そんなフェリシアの言葉を後押しするエリック。
「加勢がしたいのなら手早く済ませましょう。そうすれば、文句は言われないよ」
ね? とこっちに顔を向けて念押しまで。
「ちょっと見ねぇ間に随分と言うようになったな?」
「そりゃあ長い間、誰かに鍛えられたからね。それが今になって実を結んだとかじゃないかな?」
悪戯っぽく笑ってみせるその顔が、いやに逞しく見えて。
たった1年でこれだけ知らない顔をするようになるんだなと、急に寂しさに襲われた。
この先、そんな姿を見る機会もなくなるのかと思ったからかも知れねぇな。
未だにジェイド達の位置がわからねぇのが気掛かりだが、アンナ達は俺の要望通り、周りに転がる負傷した冒険者達を回収する作業へ移る。
その間、ドラゴンが動くことはなかった。
「律儀に待っててくれるとはな。寛大さでも示したつもりか?」
《それほどでもなかろう? 人間と比べれば長い時を生きる我らだ。ここにいる時間など瞬きに等しく、急ぐまでもないこと。我が標的は今、目前に座すのだからな》
「爺むさいことを・・・年寄ってのはどうしてこうも偉そうなんだか」
《我は 成龍(エルダー) だ! 古龍(エンシェント) と同じくするのは許さぬぞ‼》
急ぐ必要がないって言うからには話に突き合わせてアンナ達の時間をも稼ごうと思ったんだが、地雷でも踏んだか?
「てめぇらの見た目から違いなんざ分かるかよ。龍王っつーからには、それなりに生きてきたんじゃねぇのか? それとも、その偉そうな態度は生まれつきか?」
《年嵩を増せば偉くなるのではない! 権威とは! 能力とは! 生まれながらに与えられるもの‼ なれば、我が威光は我が故である‼》
生まれつきの才能だとか、尊き血筋だとか、俺からすりゃ反吐が出るがな。
《なにより、人間も変わらぬであろう? 長く生きたが故に強くなるなどと、そのようなことがあるはずもない。盛り、猛り、弱り、衰える。それこそが生命の必然》
「まぁ、そうだな」
長く生きたことによって得た知識や経験で強くなることはできるかもしれないが、体の仕組みとして若さに勝るものはない。
そうでなければ、死という概念すら危ぶまれることになるわけだしな。
しっかし、そうなると・・・こいつは精神的にも、肉体的にも、最盛期の龍王ってことになるんだよな。
5分ですら怪しいか?
できることならもう少しぐらいは会話を引き延ばしておきたかったんだが、
《詰まらぬ策を弄するな人間‼ 貴様さえ消えれば残りは見逃してやる‼》
話題選びをミスった責任は重そうだ。
鎌首をもたげ、天を叩き割るような低い咆哮。
小さき者達をただそれだけで恐慌へ陥れる脅迫の声。
ひび割れ、伝播する怯みは、人の虚飾を嘲笑いながら奪い去り、その正体を引きずり出す。
焦燥。劣等。恐怖。畏敬。悲哀。悔恨。
いずれも。
今の俺には湧き上がらず、ただ目の前の強敵だけが見えていた。
すでに近場に倒れていた冒険者達は回収済み。
巻き込まれる奴もいないだろう。
ここで終わる一生であっても、これ以上自由に振舞える場面はもう来ない。
いつか見た理想を追い求めるのならば、今をおいて他にない。
ここに至って。
俺の胸の内にあったのは、ただ感謝の気持ち。
最期に自分自身を試して終わる。
そんな舞台が用意されてるなんざ、素晴らしい人生だと言えるだろうよ‼
有り余る魔力を練り上げ、この身を強化し世界の理へと挑む。
意地と矜持に命を懸けて、踏み慣れた異郷の地を駆けて。